05
窓を開けると潮の香りがする。サトシは犬みたいに窓から顔を出して、ニコニコ笑っている。こんなに楽しそうな顔を見るのは初めてだ。
「おいワンコ。あんまり顔出すなよ」
「分かってる!」
いや、分かってないだろ。
頭撫でたら怒るくせに風でグシャグシャになるのはいいのかよ。
海がすぐそばに見える駐車場に車を停めて、今にも走り出しそうなサトシを宥めながら、歩いた。
「海だぁー!!」
「……若いっていいなぁ」
嫌味じゃない。素直な感想。
そんな風に騒いだり、走ったりする頃が俺にもあったなぁ……なんてしみじみ思ってみたり。
サトシが海に見とれながらフラフラと歩いている。見るからに危なげだ。ふとした瞬間に転びそうなので、俺はその手を引くことにした。
「えっ、た、隆さん!?」
「いーから、お前は海見てろ」
俺はサトシの顔を見ることはなかったが、きっと今、サトシの顔は笑っているだろう。
繋いだ手にお互い力を込めた。
波打ち際を歩く俺たち。
予想通り、海には俺たち以外に人はいなかった。だからこそ、手なんか繋いだりできたんだけど。
「サトシ」
「なに?」
「手、出せ」
繋いでいない方の手をこちらに伸ばすサトシ。俺はその手の平に、丸くなって小石のようになったガラスを置いた。
「何これ? 綺麗だ」
「海にはよく落ちてんだ。ガラスだよ」
「ガラス?」
「川なんかに捨てられたビンとかの破片。海まで流される間に削れて、そんな風になるんだと」
「へぇ、ほんとに綺麗。ポイ捨ても捨てたもんじゃないね」
「だな。……お、貝」
俺は見つけた貝がらを拾ってまたサトシに渡した。
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