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「おにいちゃん、おなまえは?」

「竹下紘基です」


 ちゃっかりと竹下さんの膝の上に移動して、向かい合って会話を開始する碧央。そんなことできるのは子供だからであって別に羨ましくなんかない。……羨ましくなんかない。
 ていうか碧央に対する竹下さんの顔も声も優しすぎない? だからって羨ましくなんか……。


「じゃあ、コウくんかな」

「あぁ、いいわね。コウくん」

「コウくん!」


 勝手に竹下さんのあだ名を決める那央と、賛同する母さんと、早速あだ名で呼ぶ碧央。
 俺だってまだ『竹下さん』としか呼べないのに、そんなに軽いノリであだ名呼びって……羨ましい。


「コウくん、おかわりいる?」


 那央がキッチンでコーヒーを淹れながら竹下さんに聞く。え、つか、は? そんな自然に『コウくん』って呼ぶ? お前じゃなくて碧央が呼ぶんじゃねぇの? しかも何でタメ口?


「う、んー……」

「コーヒーじゃないもんもあるよ。あったかいのは紅茶とココア、冷たいのは水と麦茶と牛乳」

「じゃあ、麦茶いただこうかな」

「あおはねー!」

「ココアだろ。すぐ作るから待ってろ」


 ちょ、何でそんな普通にこの場で振る舞える? てかなんかうちに慣れすぎじゃね? 俺が家出てから何が起こった!?
 困惑している内に那央が竹下さんの前に麦茶を置き、碧央のココアを手にしたまま母さんの隣に一人分のスペースを空けて座った。


「ありがとう、笹か……」

「那央でいいよ」

「あ、うん。ありがと、なお」

「碧央、ココア。こっちおいで」

「はーい!」


 竹下さんが碧央を抱いてそっと床に降ろすと、ピューっと那央と母さんの間に座る碧央。その碧央の手にココアを持たせる那央。『こぼすなよ』と優しく声を掛けてから席を立ち、自分のコーヒーを取りにキッチンへ行き、また戻って碧央の隣に座る。……何だろう、この疎外感。俺ん家のはずなのにアウェイな感じ。


「怜央も呼びたきゃ呼べばいいじゃん。コウくんって」

「は!? バカかお前!! 呼べねーよ!!」

「呼べないんだ」

「えっ、いやあの、竹下さんをそんな風には! 恐れ多いっす」


 もー! 那央もバカのせいで変な空気になるっていうか俺だって呼べたら呼びたいの! でも無理なの!


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