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しぶしぶ働く灰司であったが、その不機嫌そうなふくれ面が妙な人気を博し、本人の気持ちとは裏腹に指名が多くなったのである。
「なんで俺ばっかりー。疲れたー」
「休憩、してもいいぞ」
「まじー?」
「少しならな。ここにいろ。何か冷たい飲み物でも貰ってきてやる」
柏原にしては珍しい対応。『貰ってくる』とは言ってもそれは売り物。しっかりと代金を支払って、灰司のためのアイスティーを受け取った。
「え……、いいの?」
「ガキが俺様に気を使ってんじゃねぇよ。喉渇いてんだろうが。それ飲む間はここで座ってろ」
「ラッキー」
「……下駄で足痛くねぇか」
「まだへいきー」
「そうか」
裏方からフロアになった教室を睨んでいるかのような目で眺める柏原。灰司に指名が入ったり、誰かが灰司に触れた時には、その表情がより一層険しくなったものだが、今は幾分和らいでいるようだ。
「せんせーさー、暴力事件起こして飛ばされたってまじー?」
「んな訳ねーだろ」
「ふーん。そう聞いたのになー」
「じゃあお前はクスリやってて、人を殺して、少年院に入った過去があるのか?」
「んな訳ないじゃーん」
「俺はそう聞いたぜ?」
「ただの噂だしー」
「俺のもそうだ。今度そんな馬鹿なことを聞いてきたら、その口塞ぐぞ?」
ニヤリと笑った柏原。なんとなく身の危険を感じた灰司はチビチビと飲んでいたアイスティーを一気に飲み干して、そそくさとフロアに戻った。
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