08
「おお。まじだ。んで何でお前はまたコンビニのオニギリなんだよ」
「それ、絶対不味いんで。一口食べたらこっちと交換して下さい。残りは俺が処理します」
「不味くても、グチャグチャでもいいっつったの俺だし。全部俺が食うから、お前はそれ食ってろ」
弁当包みから弁当箱を出して、蓋が開けられる。その様子を俺はものすごく緊張しながら見ていた。
昨晩、母親に相談して、料理の本を貸してもらった。弁当のおかずばかりが載った料理本を母親が持っていてくれて助かった。今朝はいつもより二時間も早く起きて、本を見ながら何とか一人で作った。味見をしていないと気付いたのは、さっきのことだ。
「どんだけ見てんだよ」
「いや、だって」
「そんな見られたら食いにくいだろうが。心配しなくても十分美味そうだよ」
だってそれは、出来るだけ綺麗なものだけを選んで詰めたから。何で味見をしなかったんだろう。普段料理なんかしないから、そんな発想がなかった。不味いだろうと不安に思っていたのに、馬鹿すぎる。
「いただきます」
航平さんが卵焼きを箸で掴んだ。表面はそれなりでも、中は半熟だったり焦げていたりで酷い有様。それでも三回目で何とか形になった代物だ。
「……なんだよ。お前がそんな顔してっからどんなのかと思ったけど、普通に美味いじゃねえか」
「ほんとですか……?」
「うん、美味いよ」
他のおかずも普通に食べ進めていく航平さん。本当なのかな、それとも優しさ? どんどん無くなっていく弁当の中身。それがすごく嬉しかった。
「いつまで見てんだよ。お前もさっさと食え」
「あ、はい」
先に食べ終わった航平さんが『美味かった』とお礼を言いいながら、元通り弁当包みに包んでいる。全部食べてくれた。すげー嬉しい。作ってって言われた時はかなり戸惑ったし、実際作るのに時間もかかったし、そのせいで遅刻しそうになったけど。でも作って良かった。
航平さんは今日も食後にタバコを吸うらしい。ポケットから取り出した箱のパッケージを見ると、また嫌な気持ちになった。
「……航平さん」
「ん?」
「明日も、弁当作ってきていいですか?」
「え」
「あっ、航平さんの手首が治るまで! それまでは俺、できることしたいっていうか。やってみたら弁当作りも割と悪くなかったし。だから、美味くないと思うんですけど、食べてくれませんか」
すげー言い訳っぽい。なんで俺、自分から弁当作るなんて言ったんだろう。料理できる訳でもない。今日の出来がすごく良かった訳でもない。
でも、何でだかモヤモヤして。好きな人と同じだって言うタバコを吸ってる航平さんが、何を考えてるのか気になって。俺のことを考えて欲しくて。
何だろう。何でこんなこと考えるんだろう。まるで独占欲みたいな……変な気持ち。
「颯真がいいなら、俺は大歓迎だけど?」
「じゃあ、明日もここで」
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