12




「それでね、前に電車で声を掛けてくれた時、ほんとに嬉しかったんだ。荷物多くて座れたのももちろんだけど、柘植くんにまた会えて……それにやっぱり優しい人なんだなって思って」

「…………」


 大輔は何を言っていいのか分からなかった。というか居づらい。何だこれ! 何でこんな褒められてんの俺! と、若干パニクり気味だ。


「ほんと言うとね、俺があの日あの時間の電車に乗ったのって偶然だったんだ。でも、柘植くんがいたから、また乗ってみようって思って……」


 衝撃だった。自分だけだと思ってた。同じ電車に乗りたいなんて思っているのは、一方通行の望みだと思っていた。
 まさか、凉太までわざわざ自分に合わせて乗っていたなんて。


「……俺も」

「え?」

「あの時間の電車には普段乗ってねぇ」

「え……と、じゃあ、何で?」


 そう聞かれるのは分かり切っていた。分かっていたのについ言ってしまったのだ。素直に答えていいものか迷ったけれど、凉太にとっての自分が、そう悪いものじゃないと少し自信を持つことができた。だから、言ってしまえ! と自分を鼓舞した。


「お前に会いてえって、思ったから」

「…………」

「ワリ。キモいか」

「そんなことない! 全然っ! 全く!」


 一生懸命否定したあと、あまりの必死さに大輔は少し面食らってしまう。すると凉太が照れたようにふわっと微笑んだ。


「お前の連絡先、教えてくんねぇ?」


 これからは、もっと長くそばにいたいから。それは言わなくても通じただろう。
 たった8分間だけじゃない。長い長い時間を君と過ごせたら……それが2人の願いだったから。


end.
2014.02.15 完結


- 35 -



[*前] | 次#
[戻る]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -