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「それでね、前に電車で声を掛けてくれた時、ほんとに嬉しかったんだ。荷物多くて座れたのももちろんだけど、柘植くんにまた会えて……それにやっぱり優しい人なんだなって思って」
「…………」
大輔は何を言っていいのか分からなかった。というか居づらい。何だこれ! 何でこんな褒められてんの俺! と、若干パニクり気味だ。
「ほんと言うとね、俺があの日あの時間の電車に乗ったのって偶然だったんだ。でも、柘植くんがいたから、また乗ってみようって思って……」
衝撃だった。自分だけだと思ってた。同じ電車に乗りたいなんて思っているのは、一方通行の望みだと思っていた。
まさか、凉太までわざわざ自分に合わせて乗っていたなんて。
「……俺も」
「え?」
「あの時間の電車には普段乗ってねぇ」
「え……と、じゃあ、何で?」
そう聞かれるのは分かり切っていた。分かっていたのについ言ってしまったのだ。素直に答えていいものか迷ったけれど、凉太にとっての自分が、そう悪いものじゃないと少し自信を持つことができた。だから、言ってしまえ! と自分を鼓舞した。
「お前に会いてえって、思ったから」
「…………」
「ワリ。キモいか」
「そんなことない! 全然っ! 全く!」
一生懸命否定したあと、あまりの必死さに大輔は少し面食らってしまう。すると凉太が照れたようにふわっと微笑んだ。
「お前の連絡先、教えてくんねぇ?」
これからは、もっと長くそばにいたいから。それは言わなくても通じただろう。
たった8分間だけじゃない。長い長い時間を君と過ごせたら……それが2人の願いだったから。
end.
2014.02.15 完結
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