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「……悪かったな」


 次の停車駅に止まった電車から降りる直前に、大輔は女子生徒に向かってそう言った。小さな声ではあったが、しっかりと女子生徒の耳には届いたようだ。大輔から目を逸らして、罰の悪そうな顔をしていた。

 大輔の方からセックスを強要した訳ではない。むしろ女子生徒が大輔を誘ったのだ。女子生徒の方はセックスすれば付き合ったものと思い、大輔はセックスするだけが目的だった。
 正直、どっちもどっちじゃないかという思いが大輔の中にはある。それでも、もし今後この件で凉太に迷惑をかけるようなことがあってはならないと、謝っておいたのだった。効果はあったように思う。

 電車から降りて、さてこの傷をどうしたものかと考える。ケガくらいは慣れたものだが、ちょっと出血量が多過ぎる。放っておくのは無理だ。
 電車が発車するのを背中で感じながら、とにかく駅から出てコンビニにでも行こうと一歩を踏み出そうとした。


「柘植くん、このタオル使って」


 唐突に目の前に凉太が現れた。電車に乗ってたはずじゃ……いや、自分が降りたことで居づらくなってしまったのかもしれない。そこまで頭が回っていなかったことを申し訳なく思う。
 しかし今はそれよりも。至近距離にある凉太の顔の方が問題だ。伸ばされた手にあるタオルが、傷を押さえている大輔の手にそっと触れる。大輔はかなり動揺した。


「汚ねえから」


 そう言って一歩引いた。すると凉太は慌てたようにタオルを見せてきた。


「汚くないよ! 体育で使おうと思ってたけど結局使ってないし、ちゃんと洗濯もしてあるからっ」

「タオルじゃねえよ。血。付いたら汚ねえだろ」

「そんなの構わないよ。ごめん、俺が余計なこと言ったから……それに俺を庇ったせいでケガまでさせちゃって。本当にごめん」

「は? 何言ってんのお前」


 つい出てしまった言葉に、凉太が驚いた顔をした。しくじった。どうしてこんな言い方しかできないのだろう。
 冷たい物言いをして、傷付けてしまったかもしれない。大輔は内心ものすごく焦った。表面には全く現れないが。


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