03
世間の目はセクシャル・マイノリティに冷たくて、私はずーっと自分の心を隠して生きてきたわ。こんな風に人前でオネエ口調になったのは、狼さんとの出会いが大きかったのだと思う。
狼さんはリンさんが大好き。それはもうとびっきりの『好き』。リンさんがそばにいるとニコニコして、リンさんが離れようものなら、拗ねたり泣いたりしてでも止めようとする。リンさんがいない時は無表情で無口。
リンさんに触れて、抱きしめて、よく頬にキスをしている。それは外だろうとお構い無し。むしろ見せつけたいかのよう。『リンは俺の』って。
そんなの見てたら、馬鹿らしいって思ったの。『私』を隠してることが、もったいないとすら思えた。だって、狼さんはすごく幸せそうで、リンさんもいつも笑ってる。私だって、そんな風になりたい。
そんな風に、好きな人と過ごしたいって思ったの。
「オカマちゃーん。お前まじでOVERFLOWなの? おもしれえからって入れてもらえただけじゃねえの?」
「オカマ明日から女の制服着て来いよ。すね毛剃り忘れんなよ」
「あいつぜってえ弱えから。OVERFLOWってのもふかしてんじゃね?」
「まじきめえ。目障りだわ」
「あいつオカマだし、男が好きなんだろ? うーっわゾッとするわ」
なーんて、入学数日でからかう対象になっちゃうんだから、私には夢のまた夢よね。顔はいい方だと自分では思うんだけど、そんなに気持ち悪いかしら。女生徒の制服なんて、着れるものなら着たいわよ! 自主的に。でもダメだったから我慢して学ランなんて時代錯誤なもの着てるんじゃないの。ムダ毛の処理も完璧よ! オカマ舐めんじゃないわよ。
というツッコミを心の中にしまい込んで、ボーズとおしゃべり……というか、校内見取り図を一緒に見る。ボーズって方向音痴なのよね。そんなとこも可愛いんだけど。
「無視ってんじゃねえよオカマ! 何とか言えよ」
私の態度が気に入らなかったみたいで、いきなり胸倉掴まれちゃった。やっぱり不良の巣窟って言われるだけのことはあるわねー。すぐ乱闘騒ぎになるんだから。
「そんな乱暴に触らないで。制服が伸びるじゃない」
「まじそういうのがきめえって言ってんだよっ!」
またまた私の態度が気に入らなかったみたい。思いきり投げ飛ばされちゃった。その辺にあった机をいくつか巻き込んで大きな音がした。身体のあちこちが痛い。だから気分はとてもいい。
「エミリー。大丈夫?」
「ぜーんぜん平気よ。ボーズ、これで正当防衛成立よね?」
「うん。バレてもリンさんには怒られない」
「あー、ほんと長かったわぁ」
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