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なんとなくこの日はいつものようにブラブラと街を歩く気にはなれなかった大輔は、真っすぐに駅へ向かった。
乗った電車はいつもより空いていて、ドア近くの端の座席に腰を下ろすことができた。残業終わりのサラリーマンが鮨詰め状態になった満員電車で、汗くさい親父と密着しなくていいなんて、久しぶりのことだった。
隣の座席に鞄を置いて、足を大きく開いている大輔。電車がゴトゴトと走る中、大輔は乗客から遠巻きに見られていた。
吉原高校の最寄駅である吉原駅を発車してから7分。2駅隣の私立松瑛高校の最寄駅に着いた。
偏差値が低く、不良の巣窟などど言われて、男子校でもないのに男子生徒しかいない吉原とは違い、偏差値は全国的に見ても高く、更には授業料も高い松瑛は金持ちのエリートばかりだ。制服1つにしても昔ながらの学ランである吉原と、服飾デザイナーがデザインをしただなんだというオシャレなブレザーの松瑛では見た目からして違う。
はっきり言って、世間の目は吉原の生徒に冷たい。
「キャ……ッ!」
大輔が乗る車両に乗り込んできた松瑛の女子生徒が、大輔を見て小さく声をあげた。
大輔は声のする方を見た。特に睨んだ訳ではないのだが、生れつき人相が悪いために良くない印象を与えてしまう。怯えた女子生徒は口を押さえて、逃げるように別の車両に移っていった。
いつものことだが、不愉快である。苛立ちから舌打ちをしたが、それは電車が間もなく発車することを知らせるベルの音に掻き消された。ドアが今にも閉まろうとする中、大輔が座っている座席から一番近いドアにバタバタと駆け込んで来る学生がいた。松瑛の男子生徒だった。
「ハァ、ハァ! 間に、合っ……ハァ!」
大輔は何となく、その生徒の方を見た。凄まじい勢いで走ってきて、独り言まで言われたら見ざるを得ない。
……綺麗な顔だった。
うっすらとこめかみに浮かぶ汗が、伏せられた長い睫毛が、心を揺さぶった。
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