01
「あたしのこと好きじゃないわけ?」
「……あぁ?」
吉原高校の正門。化粧を綺麗に施した女子高生が大きな声でそう喚いた。その向かいで心底不快な顔をしている男子生徒。吉原高校2年の柘植(つげ)大輔だ。
男子生徒しかいない学校の正門に女子がいるというのは相当目立つらしく、他の生徒から野次が飛んでいる。
「ねぇってば!」
「うぜー……俺はヤれりゃなんでもいいんだよ。1人で勝手に盛り上がってんじゃねーぞ。消えろ」
「さ、最っ低!!」
パァン! と盛大に頬を打ち、女子は走ってその場から去った。野次っていた生徒は『てめーまたかよーギャハハ』と笑う始末。
元から不機嫌そうな顔をさらに歪めて歩き出そうとした背中に、ズシッと重みがかかる。
「やだー、柘植くんったらまたー? さいてー」
同じクラスの倉田灰司だった。おんぶをされるように背中にへばり付いている。灰司の唇から耳に垂れるチェーンが首に当たって冷たいと大輔は不快に思った。
「ハイジ。くっ付きすぎ」
さらに、担任の柏原までもがいる。灰司が他人にふれるのは我慢ならんとでもいうように、灰司の詰め襟を引っ張る様は教師というより1人のただの男だ。
「何。お前らまた一緒にいんの?」
「今からせんせーん家でおべんきょー」
「勉強だけで帰さねぇけどな」
「えー。今日は俺セイリだからー」
「お前がそれを言うのかよ。……好きなくせに」
「うーわ、セクハラじゃーん。やだー、さいてー」
「てめーら、うるせんだよ。さっさとどっか行け」
「怒んなよ、だいちゃーん。じゃーまたあしたー」
「おう」
灰司がポケットに手を入れてダラダラと歩き出す。それを見送って大輔はハァ、とため息を付いた。どうもあのクラスメイトは疲れる。
「柘植」
「あ? まだいたんかよ」
「突っ込む穴さえありゃーいいっつー頃が俺にもあったから偉そうなことは言えねぇが、大事なもんができてから後悔するようなことはねぇようにな」
「あぁ?」
「突っ込む前によく考えろってこった」
柏原はそれだけ言い残し、灰司と共に帰っていった。
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