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 化学準備室に連れて来られた灰司は、柏原のねっとりとした視線に困惑していた。何を言う訳でもなく、ただただじっくりと観察するように柏原は灰司を見つめていた。


「……あーのーさー、なーんでじーっと俺のこと見てんのよ?」

「見たいからに決まってんだろ」

「はーい?」

「浴衣、1人で脱げるか?」

「グチャグチャになってもいーならね」


 その瞬間、柏原の口角が上がった。何かを想像するかのように目を伏せ、ニヤっと笑ったのだ。


「……なに。こえーよ」

「髪が邪魔だな」

「何の話よ」

「そのメイクもいらねえ」

「え、ちょ、待っうあ!」


 柏原は灰司のいきなり頭を掴んだ。そして、簡素な造りの手洗い場で洗い始めた。


「大人しくしてろ」


 どこから取り出したのかシャンプーまで使って灰司の髪を洗う柏原。元の金髪頭が現れると満足げに頷き、クレンジングオイルと洗顔フォームを灰司に手渡して、顔を洗うように命じた。


「…………」


 顔を洗っている最中の灰司は知る由もないが、また灰司の身体をねっとりとした柏原の視線が襲う。
 そして、ちょうど顔を洗い終わった灰司が困ったように柏原を呼んだ。


「せんせー。タオルないのー?」

「……必要ねえよ。そんなもん」


 柏原は灰司が閉めた水道の蛇口を全開に捻り、勢いよく出た水が灰司に向かって行くようにカランに手を添えた。


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