甘い香りがした。チョコレートの甘い香り。食って下さい、と言わんばかりの漂いっぷりに思わず胸焼けがしそうだ。でも銀さん甘党だからね、血糖値は限りなく糖尿病寸前だからね。これくらいの香り、へっちゃらへっちゃら。
甘い誘惑に誘われて台所へ行くとなんとなんと愛しの名無しがいた。

「何作ってんの」
「ケーキだよ」
「え、銀さんにくれんの、お礼にちゅーしてやるよ、ほら、ツラかせ」
「違うよ、職場の人に作ってるの」
「銀さんも今日誕生日なんですけどォ」
「もう誕生日過ぎたでしょう」
「おい、知らねぇの、銀さん年に2回誕生日あるんだからね、10月と、4月。半年に1回のペースで年取っていくんだからね」
「それなら銀ちゃん今何歳なの」
「坂田さん心だけは何年経っても少年のままです」
「はいはい」


軽くあしらわれて台所から追い出された。台所は女の戦場、ってか。…いいもんね、隙を見計らって味見してやるから。
味見と言っても全部食べてやるけどね、名無しの手作りは俺のモンだ、俺以外の奴が食うなんて100万年早ェんだよ、ばーか、ばーか

なんて思ってた30分後

「銀ちゃん」
「どした」
「今日、誕生日だったよね」
「…はぁ?」
「半年に1回のペースで年取るんだよね、ってことで、誕生日おめでとう」
「…」

おめでとう、と言って差し出したそれは、それはもう何とも形容しづらい形のケーキ。
…しまった、名無しが不器用なのを計算に入れるのを忘れていた。ちょっとでいいから手伝ってあげればこんなグロテスクな産物は出来なかったものの。…いや、何をどうしたらこんなのができるわけ、ちょっと銀さんに教えてみよーか。
作った本人名無しはケーキと俺を交互に見ては何か言いたげな表情をする。…え、食べろってか、これ、を、この綺麗に塗りきれてないムラのチョコがコーティングされ、飾り付けもどことなく間違ってる感じのそれ、を、はっきり言えば完璧に失敗してしまったケーキを銀さんに食べろと。いや、確かに味見しようとは思ってたけど、…、確かに全部食っちゃえとか計画してたけど…、明らかに失敗作だよね。絶対に“失敗しちゃった☆まぁ銀ちゃんにでもあげればいっか☆”みたいな展開の流れだよね、これ。ざけんな、俺は残飯処理係かアァァァ!

「ん、と」
「…」
「やっぱり失礼だよね」
「え、名無し?」
「…、ごめんなさい」


名無しの潤んだ瞳を見た瞬間ケーキにかじりついたのは言うまでもなく。

あーいいですよ?、名無しが泣かないですむなら例え失敗作だろうと成功作だろうと余りモンだろうとその日が誕生日と称して銀さん何でも食ってやりますよ。それが例え、…グロテスクな物…、でも。





「グロッキーだけど味は最高」
「グ、グロ…?」
「!や、こっちの話だからね、名無しは気にしなくていいから!」
「そうなの…?」
「いやぁそれにしても外見に反してちゃんと美味いね」
「銀ちゃん、ありがとう」
「いーえ、どういたしまして」
「ふふ、だいすき」


そう言った名無しが可愛くて、でも本当に食べたいのは名無しちゃんだけどね、なんて意地悪言ってやったら苺みたいに顔赤らめてやんの。かわいい奴め。










10/1010
色々な方が坂誕を祝う中、あえて誕生日ではないお話にしました。なんか無理があるような気がしないでもなく。…若干…後悔しております←

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