真選組には名無しちゃんと言うアイドルがいます。気立ても出来て要領も良くて忙しい仕事量にも文句言わずこなしてくれる、こんな女中滅多にいないと評判だ。何よりは可愛くて笑顔にも癒されるから俺を含めた野郎にとても可愛がられている。いかんせん末っ子タイプ。あの副長ですら可愛がっているから驚きもの。
…だからこそ変な男に引っかかってほしくないと思うわけで。


「あ、名無しちゃん」
「山崎さん、おつかれさまです」


無事に任務が終わって屯所に戻れば名無しちゃんに出くわした。なんてラッキーなんだろう。きらきらと眩しい笑顔で挨拶されたら、うん、さっきまでの疲れなんて飛んじゃった

「今日も仕事頑張ってるね」
「山崎さんこそおつかれでしょう?お風呂入ります?沸かして来ますよ」

こんな地味な俺にさえ優しく労ってくれる名無しちゃんは天使だ。いや女神と言っても過言ではない。誰に対しても平等な優しさを与えるのが彼女のいい所だと思う。だから彼女は慕われているんだと思う。

「んー、まだいいや。
…あ。そう言えば俺お菓子貰ったんだけど甘いの苦手だから名無しちゃんにあげるよ」
「へ、いいんですか?」
「どうぞどうぞ」


小さな袋に入ったお菓子を渡すと名無しちゃんの表情は、ぱぁ、と明るくなる。実はお土産としてわざわざ買って来た物だなんて事は恥ずかしくて言わないけど。そして甘い物だって普通に食べれる事も言わないけど。

「早速いただきますね!」

でもその顔を見てたら何度だってそんな嘘をつきたくなるよ、俺は

「ん!おいし!」

袋を開けて早速砂糖がたっぷり乗っかったリーフ型のクッキーをちまちま食べる名無しちゃんはリスみたいでとても可愛い。語尾にハートが付きそうな台詞が相乗効果となって尚更可愛い。

「は〜…幸せです、山崎さんもどうですか?」
「いや甘いの苦手だから大丈夫。………それに名無しちゃんの笑顔見てるだけでお腹いっぱいと言うか」
「?なんか言いました?」
「あ、いや何でも、あはは」

下手くそなごまかし方にも何も疑わず、頭にハテナマークを浮かべながら再びクッキーを口にする名無しちゃん。可愛くて、思わず髪に手が触れそうになった時、タイミングを見計らったかの様に玄関が開いた

「どもー。お迎え来ましたー。万事屋ですうー」

聞き覚えのある抑揚の無い声は
振り返ればやっぱり旦那のものだった

「銀ちゃん!」
「会いたかったぜ名無し。銀さんの硝子のハートはな名無しがいない寂しさからもう粉砕しそうな勢いなんですけど」
「あはは、変なのー」
「時に名無しちゃん、唇に砂糖ついてるけど」
「砂糖?さっきのクッキーかなぁ」
「クッキーって?」
「あのね山崎さんにクッキーもらったんだ、すごく美味しかったの、銀ちゃんも食べる?」
「いや俺はこっちでじゅーぶん」

名無しちゃんの唇の端をぺろりと舐める旦那
オィィィィィ人の事空気扱いしてナニやってんだお前らァァァ!!

「、!」
「あらあらお顔がまっかっか。さーそろそろお家に帰りましょうねー。」

放心状態の名無しちゃんの肩を押し足を進める旦那。そして顔だけ振り向かせる。


「…手ェ出したら殺すからね(にっこり)」



その笑顔に背筋が凍ったのは言わずもがな。
みんなのアイドル名無しちゃんが旦那と付き合ってるのは知っていたさ、よりによって何故あの男…、と思った時もあった、だがいくら嘆いたって名無しちゃんが選んだ男だから口出しはしなかった、…でもまさかあんな無気力な顔しといて腹の中真っ黒な男と付き合っているなんて、想像していなかった、早く気付かせてあげなければ、あの男の正体に。残念ながら世の中は良心を持った男ばかりではない、簡単に傷付けたりポイ捨てしたりするロクでもない男もいる、繊細な名無しちゃんには尚傷付いてほしくない。だからこそ山崎嫌な役を買おうと思う。覚悟を決めて後日旦那とは別れた方がいい、なんて助言してみたらあんなに優しい名無しちゃんが一週間くらい口を聞いてくれなかった。思ったよりダメージは大きくてへこんだ、哀れ山崎退。






しかしいくら汚れ役になろうがアイドルを守るのも真選組のお仕事だと思いました、まる







10/0915
銀ちゃん夢書きたいでもザキ夢も書きたい…、と葛藤した末に混ぜたらいいじゃん!とたどり着いた結果がこれ。一応坂田夢ですが表記しないと分からないですね。

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