私の最悪=ノーメイク、寝起き
ちなみに寝起きは当然ノーメイクだし低血圧だから顔は最悪だ。放送事故だ。鏡をぶん殴ってやりたくなる。だからメイクしている時に可愛いと言われるのが私の誇り、すっぴんから、一時間程時間をかけるだけで可愛いと言われるのだ、メイクというのはミラクルだ。寧ろマジックだ。しかしその分メイクを落とした瞬間はやはり鏡をぶん殴ってやりたくなる。くどいようだがもう一度言おう、私の最悪=ノーメイク、寝起き。だから、ねぇ、そんなにドアップでまじまじと見なさんな


「…」
「おはよう」


痛いを通り越して痛々しいくらいの視線に眠りから連れ戻された私が見たもの。それはよく知っている1人の人間。それも至近距離。にっこりと笑った彼に寝起き・低血圧故のタイムラグが生じ何秒か後に名無しさんの得意技の右ストレートが放たれた、がなんなくそれを受け止められてしまい寝起きのせいか余計にイライラしてしまった

「どーしたの?ヤニ切れ?」
「…」
「そんな不細工な顔しないの」

本日2度目の右ストレート。分かっていたけどまた受け止められた、分かっていたけどやっぱり腹が立った。だって起きた瞬間こいつの顔が目の前ドアップで、しかも私はノーメイクで寝起きで、殴ろうとしたら当たらなくて、オマケに不細工な顔をするなと言われた。これ程までに理不尽で腹が立つことはあるのか。いやない。ないな。こんな理不尽男神威しかいないだろうな。

「未遂で終わったからいいけどさ。普通彼氏殴る?」
「いきなり目の前にいた神威が悪い」
「会いたくなっちゃって」
「どうやって家に入ってきたの」
「壊しちゃった」

てへ、なんて可愛らしく舌を出したって全然可愛くないぞ。いやでもちょっと可愛いとか思ってしまった、くそう、自分殴りたい

「……うーん、やっぱり人間ってメイクで変わるネ。誰かと思ったよ」
「何それ嫌味?」
「だって眉ないしいつもの気合い入ってるまつげもないし。ふふ。ちんくしゃだ」
「最低」

ぽふん、と枕にうつ伏せになれば神威は私の肩を揺さぶる。ちょ、力の加減を知りなさい、気持ち悪くなってきたでしょーが、さっきの言葉といい、今の馬鹿力といい、夜兎族は、いや神威は自重って言葉を知らないのかな

「いじけないで」
「…」
「優しくヤッたら許してくれる?」

ぞわり。思わず顔を上げる。

「死ねば」
「冗談だよ」
「……ああもう朝っぱらから気分最悪だ」
「何で?」
「この間話したでしょ、私寝起きの顔とノーメイクの顔が嫌いって。だから朝は来んなって」
「そう言えばそんな事も言ってたね」
「…それなのに早速来やがって。しかも追いうちかけやがって。ちんくしゃで悪かったですね」
「あれも冗談だってば」
「…」
「別に名無しのすっぴんが麿だろうがおかめだろうが好きなのには関係ないし」
「それでも見られたくなかったのに…ばかやろう」

再び枕にうつ伏せになれば神威の視線を痛い程感じた、でも振り向いてやるもんか。乙女のすっぴんをちんくしゃ呼ばわりにした事、反省するがいい

「ウーン、」

しばらく唸ったあとあぁ、と思い付いたように発すると、ほらね、またろくでもない事言ってきた

「話したい事があるんだけど名無し聞いてくれる?」
「聞きません」
「自分が思ってる程名無しの顔酷くないよ」
「それでもちんくしゃなんでしょーが」
「まぁ確かに眉ひっつめだったけど普通に見れる顔なんじゃない、ちなみに俺そっちの顔の方が好きだよ」
「褒めてるの貶してるの」
「褒めてるの」

ぎし…、ベッドの軋む音がしたと思えば耳元に神威の吐息があたる

「ひゃ…、」
「こっち向いて」
「い、いやだ」
「いいから、ね?」
「嫌なのは嫌、」
「向けよ」

ぞくりとするような低い声に驚いて体の力を一瞬抜いたのを見逃さなかったのかいともたやすく神威と向き合う体勢になってしまった、と言うか押し倒されてるみたいな体勢だ、朝から盛るなんて何て卑猥な男なんだ、ヤリチンか。そしてそれに抵抗もせず寧ろドキッとした私はビッチか。

「あんまり見ないで…、っ」
「可愛いよ」
「うるさい、」
「可愛い」

ちゅ。なんて軽いリップノイズ、相変わらずにこにこしてる、取り乱している私はチークも塗ってないのに顔が赤い

「メイクしているみたい」
「…、」
「本当に俺好みで可愛いよ、名無し」

今度は唇を噛まれる、今度は唇がリップを塗ったみたいに赤くなる

「…」
「あり。さっきまでの威勢はどこに行ったんだ」
「知らない、」

「あ。今度は目潤んでる。そういう目を惚けさせるような透明感のあるメイクも名無しよくしてるよね」
「頬っぺたをピンク色にするのも唇に赤いリップを引くのも目を潤ませるのも
今、すっぴんのこの状態で全部完璧だよ?」
「あ、」

どうしたというのか、短い母音を発すると神威は何かに気づいたみたいにくすくすと笑い出す


「すごいな、俺、名無し専属のメイクアップアーティストになれるんじゃないかなぁ」





(というわけで俺の前ではすっぴんでいてね)
(断る!)
(全然大丈夫だってば)
(…)
(だって俺が魔法をかけてあげるから)


神威いわく元の色が分からないくらい塗装されているキャンバスより、一切手をつけていない真っ白なキャンバスを汚すのが好きらしい。悪趣味



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