ちょっと危険な香りがする男ほどイイ男、なんてどこかのだれかが昔言っていた。本当はそういう男ほどどうでもイイ男なんでしょ、って言い返したら危うくデコピンを食らいそうになったのを覚えてる。

あれから何年経ったかな。

あの言葉が妙に納得できるようになったのはわたしの周りにイイ男がいるからなのか、それともわたしがちょっとばかし大人になったからなのか、はたまた時の流れってやつのせいなのか

まぁ、どちらにせよそれを理解できたわたしは女の色香を増したに違いない。
それが恋愛に生かせてるかはまた別として。

あと友達のまた子ちゃんを見て思うのだ。
恋している女の子はやっぱりかわいいって。
他人の色恋沙汰とかそんなことに関してはわたし、誰よりも勘が鋭いくせして誰よりも色恋沙汰に恵まれてないのもまた置いといて。

そうそう、そのまた子ちゃんの いい人 とやらはまた子ちゃんの上司にあたる人だ、ちなみにわたしとも顔見知り。
その人は高杉さんって言って、特徴っていう特徴が、いつも怖い、基本無表情、あ、でもニヒルな笑みを浮かべてるときもある、あと無口…と言うか口を開いたら卑猥な単語を言いそうなイメージ。そして女遊びが激しそう。まぁこんな感じで結構ミステリアスな特徴しか上がらない人だ。
しかしまた子ちゃんいわく、それがいい、とのこと。
なるほど。これが世間で言う ちょっと危険な香りがする男 ってやつですな。
また子ちゃんが惚れるのも頷ける。
でも少しくらい笑顔を振りまけばいいのに、わたしみたいに、とりあえず愛想を振りまけばいいのに、とか、思ったけど言ったら殺されそうでやめた。
きっと彼は無口なのも魅力の一つなのでしょう

そんな思いにふけているわたし、ただ今居酒屋さんにいます。
隣にはまた子ちゃんを始め岡田さん、武市さん、万斉さん、そして高杉さん。
この人たちも普通に飲みに行くんだな、とか、堂々とこんな所に来て大丈夫なのかな、とか色々なことを思ったけど、もうやめた。
だって一緒に飲んでいるわたしもきっと共犯だ。
だからいいのだ。
今日はそんなこと忘れて飲まれてやるのだ。

席を回って酌をする。
まずまた子ちゃん。飲みっぷりは男顔負け。さすがだと思う。いいなぁ、また子ちゃんの飲み。でも飲みすぎて暴れないように見張っておかないと。「名無しはあたしのものッスだれにも渡さないッス」なんて言ってたのは気のせいかな。

次に岡田さん。お酒を注いだら頭を撫でられた。「若いのに気が利く」なんて褒められて嬉しかった。それからちょっと話をした。なんだか渋くてかっこいい。酔った連れを暴走しないよう止めてくれそうなタイプ。飲み屋のお客さんのグループに必要な人物に違いない。

その次に武市さん。真っ直ぐな目線が痛くて仕方なかった。聞いてもないのに「ロリコンじゃないフェミニストです」って言われた、別の次元でちょっと危険な香りがする男だと本能が危険信号を出していた。

その次の次に万斉さん。ヘッドホンしてるけど会話はちゃんと聞こえてるらしい、「どうぞ」って言ったら「かたじけない」なんて返事が返ってきた。しばらく目をじーっと見つめたけどサングラス越しだと何も見えない。諦めるとふ、と笑われた。高杉さんや武市さんとはまた違った、ちょっと危険な香りがする男だと思った。

最後に高杉さん。また子ちゃんに悪い気がしたけどだからと言って高杉さんにだけお酌をしないわけにもいかない。にこり。笑ってお酒を注ぐ。するといつもの笑みで「ここに座れや」とか言われたけど高杉さんの言う ここ とは自分の膝の上だ。侮れない。やっぱり危険な香りのする男だ。


と、まぁ、こんな感じでお酌をして、その内みんなピッチが早くなって早々に酔いが回りかなり盛り上がっていた。また子ちゃんはやっぱり暴れている。被害者は主に武市さん。でも楽しそうだからいいや。岡田さんも万斉さんも高杉さんも、…うん、みんな楽しそう
え?わたし?いい感じにほろ酔い加減。
さっきから頬っぺたがゆるみっぱなしで仕方がない。
少し酔いが回ったのか
熱い体を冷まそうと、ひとり、店を出る

ふぅ。夜風が気持ちいいな。


「名無し」
「う、わ!?、」


突然自分の名前を呼ばれたと同時に膝が落ちる感覚。突然のことに心臓が破裂しそうな勢いでいると視界には、世間で言う ちょっと危険な香りがする男 が映る。

「シケたツラしてんなァ、オイ」
「……、今の、」

「膝かっくんに決まってんだろ」

彼は真顔で言うと簡単にかかりやがって、だとか、反応がガキみてェな女だ、とか満足そうな笑みを浮かべた。

てか、えええ、キャラ違くない!
高杉さん、イコール、膝かっくん
なんて一体誰がそんな方程作り上げられるのだろうか
そんなの色んな意味でドキドキする

なんて考えも一瞬で崩れた。と言うのは高杉さんの頬が心なしか赤いことに気付いたから。

「…何だァ、そのツラ」
「もしかして酔ってます?」
「お前自分から酌しといて何言ってやがる。いい女に酒注がれて酔いの回らない男はいねぇよ」
「……やっぱり酔ってるんですね」

膝かっくんといい、ちょっとキザな台詞といい。
お酒は人を変える
でもまた子ちゃんが聞いたら悶えそうな台詞だったなぁ、聞かせてあげたかった

「フン、そういうお前も酔ってんだろーが」
「酔ったらキャラが少し変わる高杉さんほどではないですよ」
「笑顔で言うな、バカ」

こめかみをぐりぐりされる。
ギブアップです、高杉さん、ごめんなさい、って言ったらやっと解放してくれた。
うう、何とも言えない痛みだ、ずきずきする。

「…。そういやまた子ちゃん達は?」
「あ?散々暴れて潰れやがった」
「あらら…」
「奴らお前が酒注いだせいで浮かれてやがったぜ」
「それはお酌したかいがあったなぁ」

わたしホステスになれるかもしれない、そう言ったらお前がなった所で泣き目を見るだけだ、と言われた。どういう意味かと聞いたら眉を潜められた。なんでだ。

「…気付いてなんかいないだろうがお前隙がありすぎだぜ?」
「そうですかね?」
「来島がお前の側で目ェ光らせてるから今の所貞操が守られてんだよ」
「また子ちゃんが?」
「…。やっぱり気付くわけねーか」
「?」
「…自覚持てよ」
「自覚?」

はぁ、とため息をつかれる。なにこれお説教モード!?
せっかく、酔っぱらってキャラが多少変わった高杉さんが見れると思ったのに!
なんてことを考えていれば高杉さんは言いづらそうに口を開く

「お前いつもバカの一つ覚えみてェにニコニコしてやがるし」
「誰に対しても愛想がいいからよォ」
「相手を選べ、バカな男共は勘違いすんだろーが」


思わず高杉さんを見る、いたって真面目な顔に心底驚く。お酒が入ってるから頬が赤いのもまたスパイスが効いてる。
…なんだこの高杉さんは。
この高杉さんは本当に高杉さんなのだろうか
お酒の力はすごい、例えば普段言えない本音が言えたり泣き上戸になったり怒りっぽくなったり
高杉さんの場合、かっこいい男を、ベースはそのままでかわいさを兼ね備えた男に変えてしまうらしい。まさしく最強コンボだ

「ふふ…」

心配されているのが嬉しくてつい笑みがこぼれる。

「…何笑ってやがる」
「いえ、わたしなんか誰も相手にしませんよ」
「うるっせェんだよ、お前危なっかしすぎて見てられないんだよ。男に騙されないかヒヤヒヤすんだよ。だから俺にしとけ、なァ?」
「とか言っちゃってどうせ明日には覚えてないっていうクチなんでしょう、遠慮しときますー」
「ンだよ…、バカ名無し」

おもちゃを取り上げられた子供みたいにむすっとする彼。かわいいなぁ、…心がくすぶられる。

「それに愛想がいいって言われるのだけがわたしの長所ですから」
「そして世の中にはそれにヤキモキしている野郎がここにいるって事を頭に叩き込んでおけ」
「やだな、もう、今日は晋ちゃんらしくない」
「晋ちゃんとか呼ぶんじゃねェ」
「はーい」

分かればいい、って言って頭をぐしゃぐしゃ撫でられた、そこには優しい笑みが浮かばれていた、普段からは到底想像出来ないその姿に、やっぱり私は笑ってしまった。

…しかし、なんていうのかな、シラフだったらぶっ殺されそうな会話だ。
でもいいんだ、酔っぱらいとはそういうものだ。
理不尽で、気分の抑揚が激しくて、理性が欠けていて。こっちの気持ちなんて一切無視で少しばかり面倒くさい。
そうでなくとも男という存在はあくまで建ててあげないといけないからなおさら。
だからこんなにも面倒くさくてこんなにもかわいい男なんて、こっちから願い下げだ。

…それなのに、俺にしとけ、なんて

軽々しく言うなっての、酔っているとは分かってても本気にするでしょ、わたしはまた子ちゃんとの友情を壊したくないっての、ちょっと危険な香りがするイイ男を代表するならね、そこら辺、少しは配慮してよ、まったく、イイ男が聞いて呆れちゃう




軽はずみな発言ほど真に受ける

(10秒やるから好きって言え)
(ぜひとも遠慮したいです)
(…ククッ、いいのかァ?膝かっくんするぞ)
(また!?)










高杉はどっちかと言うと下戸だったらいいのにな、っていう願望。
あとひざかっくんをさせたかっただけ^▽^殴

20100509

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -