「うー、イライラするー!」


機嫌を損ねた子供みたいな声と共に勢いよく開くドアの音にビックリしてそこを見ると、爪を真っ黒にさせた名無しの指が真っ先に目に入った


BESIDE YOU


「…相変わらず不器用だね」
「う、うるさいな…、」


顔を真っ赤にさせながらそっぽを向く名無しはまず不器用、って言う先入観を持って接しても想像を絶するくらいに不器用で、料理だって見てられないくらい下手だし細かいのなんて苦手中の苦手、って感じだし、今だってマニキュアを塗っていたけど笑えないくらいに塗るのが下手くそで、それに対しても苛ついてる様子だった。

これには僕も焦る、だって名無しの八つ当たりはまるで不条理だ。だから、代わりに僕が塗ってあげる、と言うとさっきまでの不機嫌さは嘘みたいにご機嫌になった。


「ちゃんと気をつけて塗れば簡単なのに」
「気をつけてても腕が震えちゃってはみ出すの」
「…でもこれはないと思うよ」


まだ除光液を塗っていない指をチラリと見るとどこが爪なんだか分からない塗りつぶされたそれ。たまに、あまりの不器用さにわざとやっているんじゃないか、と思うことがあるけど本人は真面目に不器用で。おまけにカラーはブラック、と言うセンスだ(似合うからいいけどさ)


「はい、できたよ」
「ありがとう、ジーニアス。…ん?左手の薬指だけ塗り忘れてる」
「ああ、それは、こっち」


小さな手をとってその薬指にきつく吸い付くと名無しはビックリしたように目を大きく見開いて固まった


「…あ。それだと指輪になっちゃうね、ごめん、塗り直すよ」
「……!、」



BESIDE YOU
(最初からそれが目的だったなんて)
(名無しに言ったら怒るかな)




20090421

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