やっぱり時間さえあれば声が聞きたいし、仕事中暇を見ては電話してしまいそうな自分がいたり

なんかもうこれって完全なる恋愛中毒


07


気持ちの良いくらい清々しい朝。
小鳥達は可愛らしく木の上でさえずる。
朝露が太陽に反射して神秘的な雰囲気を放っている。
気持ちが穏やかなのはそのせい

(やべ、俺詩人じゃん、朝から痒い事言っちゃった)

そんな朝の風景を眺めながら携帯を取り出す。
電話帳をくるくる回して最愛の人の名前まで到着するとそれだけで幸せになる俺。
文字通り幸せな奴だ。

そこで通話ボタンを押して声が聞けるのを待つ。
その間もドキドキして仕方ない


「もしもし」

三回目のコールで愛しい声が聞けた。
聞き慣れている声だって何度聞いても心が弾んでしまう

「おはよう」
「おはよう、退くん」
「起きてた?」
「もちろん。まだ時間あるから寝ようと思ったけどこんなに天気がいいと寝るのはもったいなくて」
「凜ちゃんらしい」
「あはは、ありがとう」
「今日は仕事?」
「店主さんが用事あるみたいだから午前中だけ」
「そっか」
「…退くんも仕事大変そうだね、ここのところ休みなしじゃない?」
「今の任務が終われば休めそうなんだ。本当にあと少しなんだけど…」
「そう。もう少しの辛抱だね」


なんてことない会話にも小さな幸せを感じてしまう
長い間会ってないわけではないのに今すぐに会いたい気分に陥る

「…ねぇ、今日は雨降ると思う?」
「どうだろう、こんなに晴れてるなら降らないんじゃないかなぁ」
「よかった。天気がいいから仕事終わったあとどこか行きたい気分なの」
「…あまりフラフラしてたら変な男に絡まれてないか心配で仕事所じゃなくなるよ」
「そういう時は退くんが守ってくれるんでしょ?」

頼りにしてるんだから

そう言われて目からしょっぱい何かが出そうになった

俺、こんなに幸せでいいんだろうか

神様は間違って他人に与えるはずの幸せを俺に分け与えたんじゃないだろうか


「ね、凜ちゃん」
「ん?」
「俺仕事頑張るよ」
「うん、応援してる!」
「頑張って頑張って頑張って…午前中までに終わらせてみせるからさ」


「お互い仕事が終わったらデートでもどうですか」

思いもよらなかったのか一瞬間があいた後、嬉しそうな返事が返ってきた。でも無理はしないで、あくまでも仕事優先にして、と言われた

心配性なのは相変わらずだなぁ


「今日すごく天気がいいからさ、色んな所に行こう。目的地なんて決めずに、知らない所に行ってみよう。また二人しか知らない場所を見つけてこっそり会うんだ」
「ふふ、いいねぇ、素敵」
「仕事が終わったら迎えに行く」
「うん!ずっと待ってる!」


電話だからその表情は見えないけど
きっと受話器越しではキラキラの笑顔なんだろうなぁ

なんて、安易に予想できるのは凜ちゃんを知り尽くしているからこそなんだと思う


やっぱり時間さえあれば声が聞きたいし、電話したら会いたくなるし
それが例え仕事中であっても

恋愛ってなんて我儘で場所を選ばないんだ


電話を切った後はすぐにテレビを点けた。
結野アナの天気予報を凝視する。
爽やかな笑顔。
見計らった様に今日は快適らしい。
嬉しくて頬が綻ぶのを隠せない


早めに仕事を切り上げるべく張り切って仕事に励んでいたら沖田隊長に気色悪いと言われた

が、そんな事も気にならないくらい気持ちは浮いていた


こんなに晴天なんだ

やるべき事をやって、早く凜ちゃんに会いたい













「…つ、疲れた…」


時計がお昼を回る頃、ようやく仕事を終わらせる事ができた。

クタクタだ。

でも、一秒でも早く迎えに行きたくて、疲れた体に鞭を打ってお店へと向かう。

きっと凜ちゃんに会えばこんな疲れなんて一気に飛ぶんだろう

何とも都合のいい体だ





店の近くまで行くと凜ちゃんが店主と話していた
店主の俺への扱いは相変わらず酷いけど。
だから店の周りにも寄り付きにくいけど。
それでも構わず行こうとした、ら


「凜ちゃん今から山崎くんと会うの?」

なんと話題が俺になったので行きづらくなり思わず近くの電柱に隠れた

職業上気付かれる事はまずないんだろうけど…
何か悪い事してるみたいで変な背徳感

「はい。仕事切り上げたら迎えに来てくれるって…」
「嬉しそうだねえ」
「へへ」
「……ふ〜ん…」

店主と話ながら柔らかい笑みを溢す。

や、やばい、ニヤケる…!

つーかこんな所から見てる姿がどこぞのストーカーみたいになってないか


「そんなにアイツが好き?」

意味深な発言に店主を見る。
表情はいつものヘラヘラした顔じゃない、至って真剣だ

「……店主さん?」
「あんな奴は凜ちゃんに似合わないよ」
「…、」
「綺麗な物には対等に綺麗な物が隣にいるべきだ」
「何が言いたいんです」
「磨けば磨く程輝くダイヤモンドと道端に落ちている石の組み合わせは誰が見たってミステイクだろ」
「…それ以上言ったら店主さんでも許しません」
「はは、怖いなぁ。
…凜ちゃんさ、いい加減気付けよ」


瞬間店主が凜ちゃんを抱きしめていた

「!っ、やだ、離し、」
「俺凜ちゃんが好きなんだ」
「…!」
「俺だけを見て」
「離してください!」
「嫌だ、離さない」

腕の中でもがいているけど所詮男の力には敵わなくてその抵抗は意味を持たない物になっていた。

助けたいのに目が離せない。
不意に店主と目が合う
ソイツが勝ち誇った笑みで笑ったので全てを悟ってしまった。
ああ、狙ってたんだ

俺が来る事を知って
俺が居る事を知って

凜ちゃんを抱きしめたんだ


確かに美人な二人は絵になるくらい綺麗だと思うよ、今だってそう、抱き合ってる二人は周りが羨むくらいの美男美女のカップルに見える
付き合ってる俺でさえ思うんだ


──守ってあげる

いつか言った言葉が過る

結局
守るべきだった今、守ってあげられなかった弱い自分がいる
凜ちゃんはどんなに怖い思いをしているのだろう。
でも俺の知らない凜ちゃんを見ている様でその場から動けなかった。


別にこの件は凜ちゃんは悪くないのに

気持ちが上手く整理出来なくて裏切られた気分


気付けば逃げる様にその場から走り出していた










本当は1話でまとめる予定だったのですが長くなったので続きます。

20100719

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