クザン×





「…何人殺った?」


飛び交う銃弾の雨をくぐり抜け、倒壊した建物の瓦礫の影にその身を飛び込ませる。ようやくこれで一息吐けると思った矢先に、そんな言葉を浴びせられた。俺は胸のポケットを漁って煙草を二本取り出し、その内の一本を隣の彼女に差し出す。


「んなもん知るか。…お前は?」
「58、でもまだ増える予定」


煙草を口にくわえ、手にしていた銃に新たな弾丸を装填した。


「嫌な天気…雨だと火薬が湿ってすぐ駄目になっちゃうから最悪」
「さっき西の空を見たが、まだまだ雨は降りそうだぞ」
「あんたは良いわよね」


氷結人間だから。そう呟いて瓦礫の隙間から数発、乾いた発砲音が戦場に響く。撃鉄が雷管を叩く甲高い音が今はやけに心地良かった。きっと俺の中でそれは彼女の一部として認識されているからだろう。


「…ガープ中将、見た?」
「流星群か?」
「そ、強烈なやつ」


空になった薬莢がばらばらと足元にばら撒かれ、煙草の煙の臭いに硝煙の臭いが混ざった。


「上もいい加減に決着を着けたいみたいだし、時間の問題ね」


クーデターで荒れ果て、一夜にして崩壊した国家。治安などという言葉には程遠いこの国に派兵された俺達は、もう一週間ほど不眠不休で事の鎮圧に奔走している。土地勘の無い俺たちは慣れない市街地戦に随分と手間取ったが、ようやくそれも終わりに近付いてきたようだった。


『作戦中の各部隊に通達する!これより中心街へ強行突入を…』
「チェックメイトって?」
「あー、どうやらそうみたいだ」
「オッケー」


がちゃんと撃鉄を引き起こし、再び瓦礫の隙間から狙いを定めて砲頭を覗かせる。


「ねぇ、クザン」
「何よ?」
「シャワー浴びたい」
「無理言うな」


好きなだけ雨でも被ってろと毒づいてやれば、彼女は楽しそうに小さく笑い声をあげた。あぁ、でも確かに俺もシャワーは浴びたいかもしれない。土埃で体中がべたべただ。


「部屋はスイートが良いわ」
「ワインは赤、だろ?」
「ふふっ、分かってるじゃない」


一瞬の静寂。俺はゆっくりと冷気をその身に纏わせる。


「頼むから俺を撃つなよ」
「努力はするわ」
「おいおい、危ないじゃねえの」


この状況でそんな軽口叩けるなんて何とも頼もしい限りだ。俺はさっきから全く微動だにしない彼女を引き寄せ、覗く白い首に吸い付く。


「んっ、ちょっと…」
「ヤバい、興奮してきた」
「後にしてよ」


体の奥が熱い。それはここが常に死と隣り合わせの戦場だからか、それとも彼女が居るからか。



「マリアが欲しい」



取り敢えず言えるのは、俺が彼女を愛しているという事だけだ。


仮葬現実


「マリア、起きなさい」
「ん、あと少し…」
「あららら、まいったな…」


時計を見れば昼過ぎ。あと一時間で集合時間だというのに。俺はガープさんに怒られるのを覚悟すると、マリアを抱きしめてもう一度ベッドの中へと潜り込んだ。



―――――
若い頃のクザンさん夢。
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(title:影)

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