スパンダム×





その場に居た誰もがきっと驚いた事だろう。エニエス・ロビーが海軍のバスターコールによって完全に壊滅したのが数週間前、海賊麦わらのルフィにやられて俺が目覚めたのが三日前の事だった。椅子に座って林檎の皮を剥いているカリファの手が止まる。


「マリア…あなた今何て…」
「私はエニエス・ロビーに戻ります」


はっきりと返ってきた言葉に、マリアが冗談で言っているのでは無いと分かった。


「何故エニエス・ロビーなんじゃ?」
「あの長官の事だ、今帰ったら間違いなく俺達に失態押し付けるだ狼牙」
「もう決めたことなの、マリア…?」
「…ごめんなさい」


理由を問い詰めるジャブラやカクの言葉に、ただ謝るしかないマリア。何故ここまでマリアがエニエス・ロビーに固執するのか、俺はその訳を知っている。


「俺達はこのままで終わらない」


ただ、悔しかったんだ。


「ルッチ…?」
「あいつはきっと俺達を消しにかかるだろう。そうすれば俺達は海軍や世界政府と敵対する事になる。…俺が言っている事の意味が分かるか?」


あの男の元に留まる事は、すなわち俺達と対立するという事。奴の性格からすれば、間違いなく今回の責任と皺寄せは俺達に来る。そして俺達もまた何もしないでいるつもりは無かった。向こうがその気なら、こちらもまたそれ相応の対応を取ってやる。


「そうだとしても行くか?」
「覚悟、出来てるから」
「っ、このバカヤロウ…」


そう言ってやればマリアは少し困った風になりながらも、いつもの柔らかさを含んだはにかみ笑顔を見せた。しばらくカクやジャブラ、カリファ達と話すとマリアは部屋を出ていく。これからすぐに長官の居る政府の病院に向かうと言っていた。


「マリア、行っちゃったわね」
「何だか寂しくなるのう…」
「あいつ俺達と戦うつもりか?」
「五月蝿い野良犬」
「なんだと化け猫?!」
「セクハラね、ジャブラ。ルッチはまだ病人なんだから早く出て行って」


ぎゃあぎゃあとうるさいジャブラをカクに任せて、カリファはさっさと二人を部屋から追い出す。


「…静かだ」
「そうね。でもこれからはきっとコレが私達にとって普通になるのよ」


肩に留まったハットリに、カクが置いてったパンを小さくちぎってやる。耳に届くのは、カリファが再び林檎の皮を剥き始めた小気味良い音だけ。



「ずっと、妹みたいに思っていた」



初めて会ったのはマリアがまだ十歳だった時。当時の俺はすでにCP9の正式なメンバーで、顔を合わせた瞬間に泣かれてしまったのだった。俺も最初はそれがうざったくて酷く邪険に思ったが、気が付けばマリアのあどけない純粋な笑顔に癒される自分が居て。そんなマリアが長官に淡い想いを寄せていると気が付いたのはいつの頃だったろうか。


「あんな野郎のどこが良いんだと、理解すら出来なかった。…マリアはもう俺達が居なくても、ちゃんと一人で立てるんだな」
「女の子なんてそんなものよ」


願わくば大切な彼女が幸せに生きていけるようにと。柄にもなくそう祈ってしまった、ある日の穏やかな午後。



愛とは何を言うのかね
(それは残酷なまでに極上の悪夢)


「取り敢えず長官は抹殺だな」
「セクハラね」



―――――
スパンダム出てない、ねorz
ルッチが変にキャラ変されてるよ…。
ちなみにスパンダム編もあります。

*title:さよならワルツ


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