スモーカー×





「…あちゃー」


それはもう至極まずそうに。眉間に皺をよせて目の前の女はそう呟く。

ここ最近のローグタウンはやたら海賊どもが出没していて、連日海軍と海賊の捕物劇が繰り広げられていた。もちろんその指揮を採るのは大佐である俺の仕事で、海賊の現れる回数に比例して勤務日数も増えてくる。そして今日はおよそ二ヵ月振りの休みだった。



「てめぇ、何でココに居やがる?」



そして久し振りの買い出しに出てみればこの状況。



「あはは、本当に久し振りだねスモーカー。元気そうで何よりよ」



活気づく市場で俺が鉢合わせしたのはマリア。正真正銘、海賊。マリアは過去に海に出ていた時にたまたまやり合ったのだが、残念な事に取り逃がしてしまっている。まぁ何と言ってもあの白髭海賊団で有名な火拳のエースと渡り合う程だ。少しだけ見くびっていたのかもしれない。


「元気だろうが何だろうがどうでも良い。てめぇは何でこの街に居るんだ」
「ちょ、ちょっと買い物に…えへ」


といいつつ、すでにマリアの足は逃げの体勢に入っている。誰がそう簡単に逃がすものかと、俺はマリアの腕をがっしりと強く掴んだ。


「ひっ!ス、スモーカー…あの…」
「誰が目の前の獲物をそう易々と逃がすんだ?」


仮にも白猟と言われている。俺は葉巻を吸って、半ば嫌味のように煙を吹き掛けてやった。一遍に二本吸っている分、煙の濃度も半端ない。マリアは煙たそうに纏わり付くそれを追い払う。


「ちょっ、止めてよ!私煙草の煙マジで無理なんだから!」
「そんなの俺の知った事じゃねえな」
「スモーカーってば酷い!」
「勝手に何とでも言ってやがれ」


早くもほぼ灰と化してしまった葉巻を落とし、足で揉み消した。さて、どうしたもんか…。


「…ねぇスモーカー」
「あぁ?」
「私、捕まったらどうなるの?」


しっかりと腕を掴んだまま思案していると、俯き気味のマリアが声を震わせてそう言った。金に輝く髪の隙間から唇を強く噛んでいるのが見える。

(マリアは確か…)

懸賞金がかかっていた筈だ。それもかなりの額の。


「…てめぇはポートガス・D・エースと同じくらいの賞金首だったはずだ。なら捕まったらインペルダウンにでもぶち込まれるんじゃねえのか?」
「っ!」
「あそこは一生出てこれねえぜ?」


恐らくは俺の言った通りのはず。しかも白髭の猛者ともなれば、本部は最悪見せしめと称して公開処刑しかねないだろう。びくりと揺れた肩に、ざまァねえなと鼻で笑った。


「…んな……め」
「あぁ?」
「そんなの、駄目ぇ…!」
「っ!おいマリア…」


そう小さく呟いたかと思うと、腕に温かい物が落ちる。しかもそれはとめどなく溢れては俺の腕を伝い、慌ててマリアの顔を上げさせた。鳴咽を漏らす彼女は、青い瞳を涙で揺らせてる。これじゃまるで、俺が、悪者。

(冗談じゃねえぞオイ…!)

端から見れば、この状況だとチンピラが街娘を泣かしている構図だった。


「お、おい。何で泣いてんだ?」
「だって、だって!私が捕まったらお父さまが出てきちゃう…!」


仲間意識が強く、決して見捨てない白髭海賊団。確かにマリアが捕まろうものなら取り返す為に平気で海軍に喧嘩を売るだろう。殊更マリアの事は一味全員がよく可愛がっていた。…奴らは間違いなく、来る。


「お父さま、体が悪いのに…!」


マリアは白髭の事を、本当の父親のように慕っていた。それはまるで本当の親子のようで今でも俺の脳裏に強く焼き付いている。俺はどうしようもなく大きく溜め息を吐いた。


「…ったく、しょうがねえな」
「え?」
「オラ、とっとと行け!」


ぱっと手を離してそう言うと、不思議そうに俺を見る。せっかく逃がしてやるのに!


「俺は今日は非番だ。だからてめぇが会ったのは海軍本部大佐じゃなくてただのスモーカーっつう一般人だ」
「スモーカー…っ、ありがとう!」


全く下手な嘘だ。俺は顔を見られないようマリアに背を向ける。後ろで軽い足音と、紙袋の中で物が揺れるガサガサという音だけが聞こえた。



3つだけ待つから
(その後は知らねえからな…!)


「…俺は思春期のガキか」


惚れた女の涙に弱い、なんて。こんなの絶対に誰にも言えやしねえな。だが誰だって好きな奴には笑っていて欲しいはず。そしてその微笑みが自身に向けられたのなら、それはきっと何よりも極上の。俺は紫煙を燻らせると、買い出しをするために再び市場の中へと足を進めた。



―――――
は、初スモーカー夢orz
これは一体誰なんでしょうかね?
ひぃぃ、もっと勉強してきます…!

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