ライル×





ルシアが俺の部屋に転がり込んで来たのは日付も変わって、そろそろ寝ようかと思っていた頃だった。ハロをスリープモードにして机の上に置いた所で、部屋の呼び鈴が鳴って俺は扉を開く。


「ハーイ、ライル!」
「…一体なんの冗談だよ、ルシア」


若干眉をぴくぴくさせながら言うも、全く気にする様子は無い。むしろ俺を押し退けて無遠慮に部屋に入ると、そのままベッドに倒れ込んだ。


「お、おい!」


これから寝ようとしていたこっちからすれば、ルシアに寝られてしまえば為す術も無いのである。仮にも女性なのだから乱暴に扱う訳にもいかず、取り敢えず俺はルシアの肩を揺すった。だが起きる気配は一向に無い。それどころか、


「もう、煩いわよライル!」
「人のベッドで勝手に寝て何言ってやがるんだよ。つか酒臭せぇ、ルシアお前飲んで来たろ」


部屋いっぱいに漂うアルコール臭。成人して多少飲むようになったとは言え、尋常じゃないこの臭いは流石に気分が悪くなる。

(どーすっかなぁ…)

正直ルシアがソレスタルビーイングの、ましてや同じガンダムマイスターなんかじゃなければこんな苦労はしなかった。道端で自分を誘ってきた女なら、事が済めばすぐにでも追い返せる。だが物事はいつだってそんなに単純ではない。何よりも厄介なのは、目の前の女性に対して好意を抱く俺自身だった。


「ルシア、いい加減にしねえと襲うぞ」


半ば悔し紛れに吐いたセリフ。だが未だベッドに埋もれていたルシアは、俺の方をちらと見るとフッと笑う。




「別に良いよ、"ロックオン"…」




そう呟くとルシアはそっと目を閉じた。やがて静かに寝息を立て始めるのを耳にすると、俺はため息と共に側にあった椅子に腰を下ろす。


「…はっ、"ロックオン"かよ」


あからさま過ぎて笑ってしまう。こんな時だけルシアは俺を"ライル"として見てくれないのだ。その瞳に映っているのはいつだって俺ではなく兄さん。ニール・ディランディその人なのである。


「何だかなぁ…」


俺はベッドで眠るルシアの首元に、そっと手を伸ばした。ひやりとした感覚と共に、金属が指先に絡まる。

そこにあったのはチェーンに繋がれた小さな指輪だった。サイズからして、きっとこれはルシアの物だろう。そして間違いなく兄さんが彼女に贈った物だ。俺はそう確信している。何故なら俺はそれを一度この目で見ているからだ。



「なぁ兄さん、あんた酷い人だよ」



かつて一度だけ見た映像。その中で兄さんは俺に彼女を頼むと言っていた。ルシアは脆いから、自分が死んだらきっと壊れてしまうと。数年振りに見た兄さんはやはり俺にそっくりで、ただ一つ違う事と言えばその首にルシアと同じ様に指輪を下げていた事だろう。酷く真面目な顔で彼女を俺に託そうとする兄さんが、俺には滑稽に思えて仕方なかった。


「生き延びるつもりの無い人間が、こんなモン贈るんじゃねえよ…」


俺は静かに指輪を戻す。未だ眠りの淵をさ迷う彼女は、今頃兄さんと逢瀬でも重ねているのだろうか。どっちにしろ、そこに俺の入り込む余地など一欠けらも無いのだ。



軌跡を遺し碧き蝶は往く
(やっぱり俺は、あんたの事が嫌いだ…)


そうして今までもこれから先もずっと、俺とルシアは"ニール・ディランディ"という絶対に触れられない鎖に縛られていくのだろう。死してなおちらつく彼の人の影が、酷く欝陶しくて仕方なかった。



―――――
久し振りに短編書きました!
若干リハビリも兼ねて、ライル夢です。
でもこれはむしろニール夢に近い気が←
えと、夢主はニールの恋人設定です。
ライルが見たのはハロのデータで、
多分出撃前にニールが録画しただろうと。
突発的だと訳が分からん話になる…orz

*title:空想アリア
(2009/5/20)

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