ライル×

※ニール夢要素ありのライル夢です








その子は時折昏(くら)い夢の淵に現れた。


「…また、来たのね」

『ねぇお姉ちゃん、毎日楽しい?』

「楽しくないよ」

『お姉ちゃんは幸せ?』

「幸せじゃないよ」

『なんで?』

「毎日どこかで戦争で人が死んでる。時には私が手をかけてる」

『戦争…なにそれ?』

「この世界で最も醜い行為」

『そんなの知らないよ。私は毎日幸せ。パパがいて、ママがいて…』

「私はもう独りなの」

『え…?』

「父さんも母さんも、テロで死んだ」

『うそ…』


くしゃり。

目の前の小さな顔が歪む。


「嘘なんかじゃない」

『違うもん、そんなのうそ。だってほら、聞こえるでしょ?ママが私を起こす声。眠くて目を擦りながらリビングに行くと、ママお手製のソーダブレッドの焼けた匂いがするの。それに夢中になってるとパパがおはようって…』

「私には母さんが起こす声や父さんの挨拶は聞こえないし、ソーダブレッドの匂いもしない!」

『うそよ!』

「事実だ!!」


瞬間、彼女の涙腺は決壊した。

私の言ったことを否定しながら…。

耳を塞ぎ、目を閉じて全てを拒絶する。


『お姉ちゃんの、うそ…つ、き!』

「…嘘じゃない」

『パパ、ママ、どこに居るの?』

「……」

『なんで返事してくれないの?』

「…彼らはもう居ない」

『ふっ…ひっく、…け……ぃる』

「っ!」


耳に届いた、その言葉。

私は大きく大きく目を開いた。


『た…けて、…る』

「…やめて」

『早く、来てよ……』

「いやよ、……いや!」


今度は私が耳を塞ぐ。

聞きたくない、聞きたくない!

嫌だ、言わないで…!!

お願いだからその名を呼ぶな。



『たすけて   !』

「いやっ、やめて聞きたくない!!!」

「どうしたルシア?」



そこで私はやっと我に返った。

ぷつり、と彼女の残像が掻き消される。

私は大きく息を吐いて、高ぶった自分の気持ちを落ち着けようとした。

そうしていれば、スッと回される腕。

モスグリーンの色彩が目に入った。


「…ロックオン」

「落ち着いたか?」

「うん」

「どうした、あんな大声出して」


外まで聞こえて来たぞ。

そう言って私の顔を覗き込む。

彼の鳶色の髪が、私にかかった。


「あ、あいつが…」

「また彼女が夢に出たのか?」


こくこくと何度も頷く。


「父さんと母さんはどこ?って」

「うん」

「死んだって言っても否定して」

「うん」


思い出せば涙が溢れてくる。

私は回された腕にしがみついた。

ロックオンは私の言葉に相槌を打ちながら、私の頭を優しく撫でる。


「呼んでた…」

『たすけて…、』

「ずっと、呼んでたの」






『たすけてライル!』





「ライル…っ!」

「…」


脳裏に浮かぶ懐かしい顔。

私の愛しい人。

私が…ひとりにしてきた人。

無意識の内に胸元に手が伸びた。

開いたパイロットスーツの胸元から覗く銀色…ライルに貰った、クラダリング。

それをぎゅっと強く握る。


「ライル、ライル…っ」

「…ルシア」

「ごめ、な…さぃ。わたし…!」

「ルシア」

「いや、いやぁ…捨てないで」

「大丈夫だ、そんな事しねえよ」

「っ、会いたいよライ…!」


泣き叫ぶ私の目に映ったのは。

吸い込まれるような、翡翠の宝石…。


(ライ、ル……)


違う、これは嘘だ。

目の前のヒトはライルなんかじゃない。

ちゃんと分かっているのに、私にはロックオンがライルに見えた。

不安定になるといつもそう。

背徳的な事をしないと生きていけない。


「ふっ、あ…ライル!」

「クレア、っ…好きだ!!」


目を閉じて首に腕を回す。

唇に感じた熱をただ夢中で貪った。

















(いた、い……?)


頭がくらくらする。

もはや本当に痛いのかすら不明だ。

それでも別に構わない。


「大丈夫か、ルシア…?」

「うん」


そう言ってロックオンに抱き付く。


「…やっぱり戻れよ、ルシア」

「もう良いの。それに今は本名で呼んでよ、…ニール」

「クレア…」


こつり。

ヘルメットのバイザー越しにキスをした。

やっぱり温もりまでは伝わらない。

でも私達は何度も唇を重ねる。


「ははニール、GN粒子が雪みたい」


まるでアイルランドに帰ったような錯覚。


「向こうは今頃積もってんだろうな」

「懐かしい、な。ニールのママさんのアイリッシュシチュー」

「ジャガイモばっかだけどな…」

「ふふ、ニール好きじゃん」


思い出されるあの日々が懐かしかった。

でももう戻れない、あの日奪われた。


「食いてえな、母さんのシチュー」

「ニール…、帰ろう」

「クレア?」


ニールの片目が大きく見開く。



「帰ろう、私達のアイルランドに」



記憶の彼方で微かに響く歌声がある。

それはかつて私とニール、ライル、エイミーちゃんの4人で歌ったアイルランド民謡。

毎日飽きもせずに、大声で歌った。

あぁ、懐かしい。

ニールの瞳が、奥でぐらりと揺れる。


「ライル…エイミー…」

「ニール帰ろう、…ね?」


その時、視界の端に何かが過ぎった。


「ニール、あれ…」

「っあ、あれは…!」


青い色彩を放つそれは…、



「…ち、きゅう」



母なる星、地球だった。

この宇宙で唯一生命が宿る場所。

私達の魂が、巡っては回帰する場所。


「よぉお前ら、満足か?こんな世界で…」


ニールの腕が伸びる。

すっぽりと手に収まるくらい小さい。

もはや二度と踏めない故郷が、今は遠くて哀しかった。

開いた手が、ゆっくりと銃を形作る。


「ニール、独りで逝かせないから」

「ルシア?」

「あなたの魂は、私が地獄まで連れてく」


私は銃のその先を見据えた。

きっとこれはライルを裏切った罰だ。

どこかで火花の散る音が。



「一緒だよ」

「クレア、おれ…っ!」



あぁ、ニールが何か言ってる。

なんだろう、聞こえないよ。

微かに視界に鮮やかに輝く地球が映る。


(ライル、あぃ…し、て…)


刹那、白い閃光が私達を包んで、そこで意識は途切れた。




(ハロ、これをお願いね…?)
(昏い夢をもう見ない)



「ニール・ディランディとクレア・オブライアンは死んだ」

「兄さんと、クレアが死んだ…?」


その少年は、青年に銀の指輪を手渡した。



―――――
ライル夢でした。
でも若干ニール夢っぽい…。
夢の女の子は、勿論ヒロイン。
ちなみにニール→ヒロイン→←ライル。
つまりはニールは片思いです。
ライルは置いてきぼり。


*title:DOGOD69
(2009/1/1)


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