「…本当に助かりました」


俺は最後の一冊を本棚に直し、脚立から降りた。少し申し訳なさそうにしている彼女、アリエルはその手いっぱいに本やらを抱えてる。何だか今にもそれらは彼女の腕からこぼれ落ちそうだった。


「そりゃあんなの見たらねぇ」
「うっ、すいません…」


誰も見張りが居ないから今のうちにサボろうと思い、執務室を抜けて人気の無い書庫に来たのだが。


「本棚にあるはずの本が大量に落ちているし、中から助けてって声まで聞こえたし…。そりゃ助けないわけにもいかないでしょうに」


本人が言うには一番上の段にある本を何とか取ろうとしたら、一緒に他の本まで自分に落ちて来てしまったのだとか。そんな手の届かない場所にある本なら、誰かに頼んで取ってもらえば良かったろう。


「ところで何してたのよ?」
「あ、いやちょっと勉強を…」
「勉強?」
「はい、航海術です」


そう言ってアリエルはそばにある机にそれらを置いた。なるほど、海図の束もある。


「何で急に航海術なんか…」
「私は立場的には海兵ですが、他の方みたいに強いという訳ではありません。しかしこれからクザンさんに着いて海に出ないという訳でもありませんし…。だからせめて海兵として必要そうな知識だけでも身につけておこうと思って」
「ふーん、そっか…」


アリエルは本当に努力家だ。ついこの前も猛特訓の甲斐があって、狙撃訓練では優勝な成績を修めたと聞いている。体力の少ない彼女にとって体術よりも負担は少ない。そして最も負担が軽減できるのは頭脳を使って戦う事だった。


「海を渡る手段を船に頼る限り、航海術とは生き抜く術と言っても過言ではありません。何があるとも分かりませんし、出来る事なら何でもやっておきたいんです」


浮かべる笑みには一点の曇りも無くて。俺はアリエルの頭を撫でる。


「まぁ、何かあった時は俺が守ってやるからさ」
「そちらも手は抜きません」
「あらら、可愛くない」
「お、大きなお世話です…!」


少し怒ったように、彼女はむくれて本や海図と睨めっこを始めた。雰囲気からこれ以上関わるなと思いきり前面に出ている。

(本当に可愛いなぁ…)

彼女の子供な所も俺は好きだ。


たとえば未来の信じ方


「うー、分かんない…」


鉛筆を握りしめたまま、うんうん唸って机に突っ伏すアリエル。それをちらりとアイマスクの隙間から覗きながら、俺はフッと笑ってゆっくりと目を閉じた。


(title:たとえば僕が)

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