俺が初めて彼女に出会ったのは大将に昇格して間もない五年ほど前の事だ。センゴク元帥に呼ばれて、サカズキ達と一緒に執務室に行った記憶がある。その時感じた第一印象はただただ"幼い"だった。
「初めまして、名前は？」
「…アリエル」
アリエル、そう名乗った彼女は酷く不安そうな顔をしていて。
「これは"乙姫"だ。今までは政府の管理下に置かれていたが、本日よりこの海軍本部で預かる」
「乙姫…懐かしい響きだねェ」
「フン、迷惑な話だ」
「そう言うもんじゃないよ」
センゴク元帥の側に立つおつるさんが二人をたしなめる。そうすればサカズキ達は渋々と言った感じで口を閉じた。
「政府はいずれ乙姫が我々の武器になると考えている」
なるほど、だから今の内に飼い馴らしておけという事か。とはいえ、こんな年端も行かない女の子にそれは少し可哀相な気がする。サカズキ達はセンゴク元帥の言葉に納得したのか、それからは口をあまり開かなかった。そんな二人に俺は溜め息を吐いて怯えるアリエルに向き合う。
「俺はクザン。…まぁ、あれだ。別に取って食う訳じゃないから」
「…クザ、ン？」
「そんな怯えなさんなって」
これじゃまるで俺が彼女を怖がらせてるみたいだ。取り敢えずふわふわの髪に手を伸ばし、ぐしゃぐしゃと頭を撫でる。
「…仕方ない。青雉、乙姫のことはお前に一任する。くれぐれもそれの取り扱いには注意しろ」
あの日から五年。アリエルは俺の補佐官として、この海軍本部で忙しい毎日を送っていた。
シュガーレスバラード
「クザンさん、仕事して下さい」
「えー…めんどくさい」
そうやって俺がいつものように駄々を捏ねれば、君は少し怒りながらも困ったように苦笑するのだ。
(title：たとえば僕が)
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