「もしもし死んでますかー?」
べし、と何かで叩かれた音に目を覚ました。そして寝起きに浴びせられたその一言に、俺は軽くアイマスクを上げて頭上の人物を見る。あぁやっぱり思った通り。
「あのさ、ポラリス少佐って俺に何か恨みでもあるわけ?」
「そうですね、強いて言うならクザン大将がこの部屋に溜め込んでいる書類の山と同じくらいには」
俺が死んでいる事を前提に文字通り叩き起こしたのは少佐だった。丸めていた本をテーブルに置き、向かいのソファに座る。まったく彼もすっかりこの部屋に馴染んだものだ。
「それで…仕事サボって部下を泣かせてる揚句、アリエルさんまで泣かせて何してるんですか?」
「……やっぱり泣いてた?」
責めるような視線が俺に鋭く突き刺さる。
「何であなたはそうやる事が突然なんですか。散歩と称してサボるのもそう、いっそ正直に一言あった方がこっちも楽ですよ」
「それじゃ今からサボ…」
「物の例えだって…いくらクザン大将でも分かりますよねぇ?」
「……ごめんなさい」
怖い、その笑顔が怖いよ少佐。取り敢えず命の危険を感じて素直に謝れば、何でこんなのが上司なんだとぶつぶつ文句を呟いた。え、俺って大将だよね?偉いんだよね?
「とにかく、今後は変な事しないで下さい。彼女が混乱しますから」
そう釘を刺すように言われれば、俺も頷くしかない。
「…なんかさ、何が最終関門かって言われるとサカズキとポラリス少佐は同じくらいだと思うよ」
「何がですか?」
「いや、こっちの話」
まるで小姑みたいって思ったけど言うと面倒だから黙っておいた。それにしても彼はアリエルの事を本当によく気にかける。元々面倒見は良い方だったが。
(流石に妬けるよね…)
本当に少佐が羨ましい限りだ。
「…あ、そう言えば」
「なに?」
「赤犬さんからクザン大将にと」
サカズキからだなんて珍しい。普段は俺に文句を言いながらも放っておくのに。俺は差し出された書類を受け取ってそれに目を通す。
「……は?」
空では神様が笑ってる
「え…?」
「来て頂けますね」
吹き抜ける風に、白衣の裾がふわりと攫われる。眼鏡の奥にある黒い瞳が私を冷たく見下ろした。
(title:たとえば僕が)
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