最近アリエルの様子がおかしい。別に書類整理を手伝ったり、いつものようにガープさんの所で訓練を受けたりはしている。相変わらずのように途中で倒れてしまうのも。


「ねぇ、アリエル」
「書類提出してきます!」


おかしい、というか。



「俺って避けられてる…?」



その事に気付いたのはここ数日の事だった。喧嘩をしたんじゃない。他に思い当たる事も無いのにアリエルが妙によそよそしく感じる。俺の思い過ごしじゃないはずだ。


「ただいま戻りました…って、クザン大将?」
「おかえんなさい」


そんな風に一人でうんうん悩んでいると、扉が開いてポラリス少佐が姿を現す。報告書の入った封筒を片手に部屋に入るなり、少佐は俺の顔を見て小さく首を傾げた。取り敢えず彼の持ってきた報告書の封筒に手を伸ばし受け取る。


「予想より海賊の拿捕に手間取りましたが、幸い怪我人は居ません」
「ん、ご苦労さん」
「…何か悩み事ですか?」
「分かる?」
「それはまぁ、はい」


あんなに唸られたら、と少佐は苦笑する。…それもそうか。


「何だかアリエルに避けられてる気がするんだよねぇ…」
「セクハラしたんですか?」
「上司だよ俺?」
「ならパワハラですね」
「俺って、一体…」


ついでに部下も反抗期です。俺はどうにも冷たいポラリス少佐に更に頭を抱える事となった。もうこうなったら久し振りに脱走してやる。


「…本人に聞いたらどうです?」
「だって逃げられるし」
「無理矢理は得意でしょう」
「何かヤな感じ…」


相手は女の子で、少なからず好意を寄せている人なわけで。無理矢理というのは何だか気が引けた。


「失礼します」
「あ、噂をすれば本人ですよ」
「ポラリス少佐、戻られていたんですね!すぐにコーヒー煎れますからソファーでゆっくり…」
「いえ、もう戻りますので」
「え、もうですか?」


そう呟いたアリエルは本当に残念そうで。ポラリス少佐は小さく苦笑すると部屋を出ていく。同時に訪れた沈黙に気まずさを感じたのか、アリエルはちらりと俺を見た。でも相変わらず口は開かず。

(どうしたもんかねぇ…)

俺と彼女の間の、微妙な距離間。



「………あ」



ふと、アリエルの首元で煌めく物を見つけた。


「それ、着けてるの?」
「え?あ、はい」


つい先日、海軍本部に戻る道すがらアリエルにあげたペンダント。それを彼女は身につけている。自己満足でしかないそれは下手すれば彼女にとって邪魔になるだろうに。



「…アリエル」



あぁ、もう本当に。



「クザ、ン…さ……?」



君の全てがただ愛しくて。


未完成なキスをしよう


「…え、ぁ……っ!」


ほんの少し、ほんの少し唇が触れただけ。ただそれだけの事でも彼女には驚くべき事で。自分の身に何が起きたのかようやく理解すると、アリエルは顔を真っ赤に染めて部屋から飛び出して行ってしまった。


(title:たとえば僕が)

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