「…いい加減にして下さい」


そう言って彼、ポラリス少佐は額に青筋を浮かべ口元を引き攣らす。俺はアリエルが入れてくれたコーヒーを受け取り、ベンチに腰掛けてすぅと香りを堪能した。恐らく挽き立ての豆を使っているだろうそれは、何とも香ばしい香りがする。


「本当にすいません…」
「アリエルさんは良いんです!」
「それって差別じゃない?」


申し訳なさそうにペコと頭を下げるアリエルに、彼は慌てて顔を上げさせた。その態度の違いはなに?


「だいたい大将ともあろう方が、どうしてアリエルさんをわざわざ危険に曝すような真似を…!」
「ねぇ、クッキーちょうだい?」
「クザン大将!」
「聞いてるって。だからそう大きな声を出しなさんなよ」


このポラリスという男は若いながらに仕事が早く実力もあるが、どうにも堅物な奴で敵わない。俺はポリポリと頭を掻いた。


「…まぁ、今回はアリエルさんが無事だったので良いですけど。今後はどうか慎んで下さいね」
「やっぱり差別だ」
「それでは仕事があるので」


去り際にアリエルの頭を二、三度優しく撫でる。俺と彼の間でオロオロしていたアリエルは、それで安心したようだった。とても気持ち良さそうにすっと目を細める。


「…こっちおいで、アリエル」


それが何だか悔しくなって、気付けば彼女を呼んでいた。


「何ですか、クザンさん?」
「ここに座んなさい」
「え、でも…」
「良いからほら」


ぽんぽんと膝を叩けば、一気にアリエルの顔は赤くなる。若干戸惑いを見せる彼女に苛立って語気を少し強めれば、恐る恐る膝に座った。それはもうちょこんと小さく。


「あっち向いて、じっとして」
「えと、クザンさん?」


不安そうに声をあげる彼女を他所に俺はジャケットのポケットに手をやった。ごそごそと中を漁り、小さな箱を取り出す。蓋を開ければ綺麗なペンダントが現れた。


「クザン、さん?」


それを手に取り、アリエルの首にかけてやる。美しい、深海の青が彼女の胸元で確かに輝いていた。アリエルは驚きと困惑をないまぜにしたような瞳でじっと俺を見つめる。


「やっぱり似合うね」
「あの、これ…」
「あげるよ、アリエルに」


プッチの街で見つけた小さな店。そこに並べられていたそれは彼女にとても似合うと思った。



「それ、いつも着けててね」



近しい女性にアクセサリーを送るのは独占欲の証、といつか聞いた事がある。アリエルが果たして近しい女性と言えるのか分からない。ただ自分が持て余しているこの感情が嫉妬なのだという事は理解していた。俺はアリエルを包み込むように、そっと後ろから抱きしめる。


「ねぇ、アリエル」


君が俺だけを見てくれたなら。


「何ですかクザンさん?」
「…あー、いや。やっぱ良いや」


そう言えばアリエルは小さく首を傾げた。この子が俺の抱く感情を知る必要なんて、無い。


目まぐるしい世界


「…で、他に言い訳は?」
「「ありません」」


連れ戻された海軍本部。そうして俺とアリエルはセンゴク元帥の前で正座にされ、しばらくお説教を聞かされたのだった。


(title:ステラ)

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