「別に来なくて良かったのに」


久し振りに海軍本部が大賑わいしている。懸賞金の低さに見合わない強さの海賊が暴れ回り、巡回を兼ねて拿捕に当たった将校の艦隊がやられてしまったのだ。自分で言うのもアレだがこうなったら強い者に指令が下るのは当然であり、面倒事は避けたい俺は先手を打ってチャリで海軍本部を出る。


「いえ、補佐官ですから」
「大人しくしてなさいって…」


あの一件からしばらくの間、政府や海軍は事態の収拾に追われた。予想通りアリエルを狙う輩の報告も各地から挙がっている。新聞には外見的特徴まで書かれていた。

(やっぱり内部犯が居る…)

今は大人しくしているべきだというのに。



「でも危なくなったらクザンさんが助けてくれるんですよね?」



フフ、と小さく笑いながらアリエルは問い掛ける。まったくあんなに訓練漬けの人がよく言うよ。


「まぁ、そういう約束だからね」
「あ、その言い方酷いです」


嘘だよ。



「嫌って言っても駄目だから」



だから安心して守られてて。そう言えば、彼女は嬉しそうに背中越しに擦り寄ってきた。それが何だか妙に擽ったくてこの上なく嬉しい。


「アリエルはどこ行きたい?」
「美食の街、プッチ!」
「あらら、食いしん坊さん」
「違いますって!」


ぎゃあぎゃあ言いながら、穏やかな昼の海を走って行く。



「…ずっと平和なら良いのにね」



涙も哀しみも無い世界なら、きっと君はもっと、ずっと笑顔でいる事が出来るはずなのに。なのに世界はどうしてこんなにも痛みを伴って。


「あ、見えてきました!」
「何か疲れた…」
「あと少しですよ!」


今日が過去に変わった時、君が一人で泣いていませんよう。


メルトダウン交響曲


「取り敢えず昼メシだな。アリエルが決めて良いよ」
「え、でもそんな…」
「レディーファーストって奴だ」


街中で配られていたマップを広げてアリエルと覗き込む。たくさんありすぎて迷っている彼女が可愛くて思わず頬が緩んだ。


(title:瞑目)

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