「…こちらD班、目標を発見した」


それはもう、十年以上前の事。ズカズカと無遠慮に入って来た黒いスーツの男達、胸元に世界の全てを統べる権力の象徴を刻んで。薄暗い部屋の奥で横たわる私の腕を一人の役人が乱暴に掴むと、無理矢理立たせて港に着けていた船に乗せられた。


「これが新たな乙姫?」
「ただの子供ではないか…」


しばらく船に揺られ、連れてこられたのは聖地。だだっ広い部屋の奥には、五人の男が静かに佇む。


「奴め、我らの目を盗んで勝手に子供を作りおって。しかもこれの母親は海賊の娘だと?」
「穢れた女神に我らは用は無い」
「クズ共にくれてやるのか?」


怖かった。目の前の男達は、一体何を話しているのだろう。ただ一つ言えるのは彼らは私の存在を疎ましく思ってるという事だった。



「アリエル、と言ったか…」



ようやく静かになったと思えば、白い髭を長く蓄えた一人の男に話し掛けられる。


「見て分かるだろうが、我々はお前を歓迎していない」
「…はい」
「そこで提案だ。お前にはこれからしばらくここで暮らしてもらう。最低限の生活は保証しよう。ただし我々の言うことには絶対従え、拒否権は無い。もしこれを断るのならお前に用は無い。…賢いお前ならこの言葉の意味は分かるな?」


紡ぐ言葉は侮蔑に塗れ、瞳はその眼光で射殺さんばかりに鋭い。別に私はそれで彼らに殺されても良いと思った。母は私に記憶すら残らないほど昔に死んだし、一度も会った事の無い父は恐らくもうこの世界に居ないだろう。私は独りぼっちだ。



「…分かりました」



でも、それでもなお生を望むのは海を愛しているから。海が私を求めるように私も海を心から求める。

(あぁ、なんて恥さらし…)

いっそ海の牙に噛まれ、溶けて消えれば良いものを。


世界に殺された夜


「そんな怯えなさんなって…」


クザン、と名乗ったその人は酷く温かい手をしていて。ねぇ、貴方なら私に貴方の心をくれますか?


(title:たとえば僕が)

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