「…大変ですセンゴク元帥!」


しばらく無言の睨み合いを続けていると、突然部屋の扉が開いた。入ってきたのはセンゴク元帥の側近の海軍将校。その手には何やら新聞が握られている。何となく、嫌な予感が脳裏を駆け巡った。


「どうした?」
「そ、それが今日の新聞に!」


訝しみながらも差し出されたそれを受け取り広げて目を通す。


「なっ…?!」
「っ、これは…!」


新聞で最も目立つ一面記事。そこに書かれたものはアリエル…乙姫の事だった。これまで政府や海軍、考古学者までも暗黙の了解としてひた隠しにされてきたというのに。それがこんなに大きく書かれている。


「すぐに差し押さえろ!」
「しかし、もうすでに配達が…」
「配達員を止めるでも何でもすればよかろうが、くそっ…!!」


ぐしゃりと新聞を握り潰し、苛立ちをあらわに部屋を出て行った。再び静寂が訪れる。


「クザンさん…?」
「心配しなくていい、アリエル。ただ世間に知られてしまった以上はこれからたくさんの人間に狙われると思う。単独行動はやめなさい」
「…はい」


これからきっとヒューマンオークション目当ての人攫い屋や、その能力を欲する海賊たちがアリエルを狙うに違いない。一体どこから情報が漏れたというのか。

(とにかくアリエルを守るんだ…)

俺はもう一度、今度は自分からアリエルの手を強く握りしめた。


「…あの、クザンさん」
「ん、なに?」
「私はここに居て良いんですか?」


何の事だか一瞬分からなかったけれど、あぁとすぐに思い当たる。


「そんな怯えなさんな。あー、あんな事を言ったのは悪かったと思ってる。アリエルがそんな風に考えてるとは思わなかった」
「クザンさんは私のために…」
「いや、あれは俺のエゴだよ。アリエルがここに居たいんなら好きにすりゃあ良い。ま、こんな事になってしまった以上はもう外に出す訳にもいかんが」


びくびくと怯えながら俺の様子を伺うアリエル。宥めるようにゆっくり頭を撫でてやれば、少し大袈裟に肩が揺れた。


「アリエルは、どうしたい…?」


彼女が願うのなら、俺は。


「っ、居ても良いの?」
「アリエルは居たいんだろ?」
「居たい…居たいよ」
「…なら、一緒に居よう」


そう言えば彼女は俺に思いきり抱き着く。普段は何があっても控え目な反応しか返さない彼女が、俺の腕の中で大きな声をあげて。


シャングリラでふたり


「…あらら、こりゃあ」


何だか静かになったと思ったらアリエルは寝ていた。色々あって疲れたんだろう。俺はそっとベッドに寝かせてやると、彼女の手を握り直してゆっくり目を閉じた。

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