――アリエルがまだ俺の所へ来たばかりの頃、俺は彼女の存在が欝陶しくて仕方が無かった。


「…そんなにべったり俺に着いて来なくても良いんだけど」
「あ…すいませんクザンさん」


何度か注意しても、いつもちょろちょろと俺の後ろを着いてくる。ガープさんには可愛いもんだとか何とか言われたけど、元来誰かと行動を共にするのを好まない性格の俺にとってはストレスだった。だから俺はアリエルの目を盗んでたびたび脱走する。


「あ、ここに居たんですね!」


逃げては見つかり、見つかってはまた逃げ回って。


「なに、青雉が居ないだと?早く探しに行かんか馬鹿者!!」
「すいません、センゴク元帥!」


元帥から怒鳴り散らされ、アリエルは時折泣きそうになりながら一生懸命探す。それが楽しい。


「見つけましたよクザンさん!」


でも、どうしてなんだろう。俺を見つけた瞬間のアリエルはいつも笑顔。それが何故か俺の胸をきゅうっと締め付けるのだった。これは、彼女に対する罪悪感なのだろうか?それとも。



「恋じゃな!」



そう言ってガープさんは新しい袋を開けて、煎餅をまたバリバリ食べた。


「…は、恋?」
「なんじゃ違うのか?」
「いや知らないって」


いきなりそんな事を言われても俺に分かるはずない。俺は顎を手について考える。いつも俺のそばに居た彼女が本当に欝陶しかった。だからわざと逃げて困らせて、それを楽しんで。俺を探して海軍本部やマリンフォードの街をいつも一生懸命に駆け回るアリエルが好きで、

(………って、あれ?)

ちょっと待て。今、俺…何て?


「…いやいやいや」
「ぶわっはっは!青春じゃのう」
「あんた何勘違いしてんの」
「青二才もその内分かるわい」


この人が恋愛を語るのは何だか気持ち悪い。と、そうではなく。



「俺がアリエルに恋?」



そんな事ありえないと。何て馬鹿馬鹿しいんだと。いい年した大人があんな子供に恋だなんてガープさんも目茶苦茶を言う。なにが「恋じゃな」だ。

(そんな事はありえない…)

そう、間違ってもあるものか。


ベビーピンクの憂鬱


「…とか何とか言っとった奴はどこに消えたんじゃろうな?」
「また…もう本当勘弁してよ」


そして今。会うたびにそうやって笑うガープのじいさんの方が、何だかもっと欝陶しいです。


(title:影)

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