「…本当に助かりました」


俺は最後の一冊を本棚に直し、脚立から降りた。少し申し訳なさそうにするアリエルはその手いっぱいに本を抱えてる。何だか今にも、それらは彼女の腕からこぼれ落ちてしまいそうだ。


「そりゃあんなの見たらねぇ」
「うっ、すいません…」


誰も見張りが居ないから今のうちにサボろうと思い、執務室を抜けて人気の無い書庫を訪れた…のだが。


「本棚にあるはずの本が大量に落ちているし、おまけに助けてって声まで聞こえたし…そりゃ助けないわけにもいかないでしょうに」


本人が言うには一番上の段にある本を何とか取ろうとしたら、一緒に他の本まで自分に落ちて来てしまったのだとか。そんな手の届かない場所にある本なら、誰かに頼んで取ってもらえば良かっただろう。


「ところで何してたのよ?」
「あ、いやちょっと勉強を…」
「勉強?」
「はい、航海術です」


そう言ってアリエルはそばにある机にそれらを置いた。なるほど、多くの海兵たちに使い古されたであろう参考書や資料がここにはごまんとある。


「でも何で急に航海術?」
「私は立場的には海兵ですが、他の方々のように強いという訳ではありません。ですがこれからクザンさんに着いて海に出ないという保証は全くありませんし…。だからせめて海兵として必要そうな知識だけでも身につけておこうかなと思って」
「ふーん、そっか…」


アリエルは本当に努力家だ。ついこの前も猛特訓の甲斐あって、射撃訓練では優秀な成績を修めたと少佐から聞いている。この子は体力は無いが、頭を使ったり技術を要する事なら努力で何とかしてくる。


「海を渡る手段を船に頼る限り、航海術とは生き抜く術と言っても過言ではありません。何があるとも分かりませんし、出来る事だったら何でもやっておきたいんです。それにその…クザンさんの補佐官ですから」


そんな言葉を自分で口にして恥ずかしかったのか。アリエルは顔を真っ赤に染め、ぱっと俯いてしまった。


「まぁ、ぼちぼち頑張りなさいや」
「っ…はい!クザンさん」


そうして小さな俺の補佐官さんは、机に向かったのである。


たとえば未来の信じ方


「…あれ、そう言えばクザンさんお仕事の方はもう終わったんですか?」


ふと、書類の山がいつの間にか山脈となってしまった部屋を思い出した。ほぼ間違いないのだろうが、サボりなら追い返さねばと思い奥のソファの方へと振り返る。


「………っ、もう」


そこにはアイマスクを下げて、気持ちよさそうに眠る姿。もう怒る気にもなれない。あと少し寝させてあげようなんて、私もとんだ甘い補佐官だ。


(title:たとえば僕が)

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