※名前変換なし




田舎というのはやはり最高だ。都会のような喧騒は無いし、食べ物だって美味い。何よりも人が温かいのが私は良いと思う。セントラルでは毎日誰それが殺されただの何だのと物騒な事ばかり耳にするが、こちらではそんな話は殆ど聞くことも無かった。


「あんまはしゃぎ過ぎんなよー」


ぽすりと草を踏み潰して座り込んだ親友がのんびりと言う。なんて平和なのだろうと思った。


「…お前はあいつの保護者か」
「良いねぇそれ、養子にすっかな」
「ほざけ」


私が言ったことを笑って茶化すヒューズに、若干ふて腐れる。ごろりと寝返りを打って背中を向ければ奴は大声でそれを笑った。後で一発、いや二発ほど殴らせてもらおう。


「…平和だな」
「…あぁ」


遠くで楽しそうにはしゃぐ声が聞こえた。あれほどはしゃいでは危ないと何度も言い聞かせたのに、どうやら彼女にはほとんど意味が無かったらしい。

(まぁ良いか…)

昔に比べて随分と笑う。今はそれだけで満足しようではないか。



「聞いたか、イシュヴァールの話?」



ふと、うとうとしかけていた意識に親友の声が届く。私は目をつむったまま彼に相槌を打った。


「もう五年になるってのに、まだ終わろうとしやがらねえ。冗談じゃねえぞ畜生。いい加減にしやがれ」
「いずれは我々も赴くことになる」


東部のさらに東にあるイシュヴァール地方は、昔から居るイシュヴァール人が暮らしている。そこには地の神・イシュヴァラと言うのがいてその土地に住まう民を守っているらしい。またイシュヴァール人達も神を崇めて厳しい戒律を守りながら生活していた。


「ったく、お偉いさんもほんと面倒な事してくれるよな」


数年前に起きた軍将校によるイシュヴァール人の少女殺害事件。それが発端となった内乱は、今でも多数の死傷者を出しながら続いている。


「…ここもそのうち焼けるのか」
「どうだろうなぁ」


ふわりと柔らかな風が頬を撫でた。少し冷たくなってきたから、そろそろ帰った方が良いだろう。


「そろそろ帰るぞ」


私はゆっくりと身を起こして、向こうで遊ぶ少女に呼び掛けた。彼女は元気に返事をすると、転ばないように気をつけて走ってくる。なんだ、ちゃんと分かっているじゃないか。


「今日は私の家か…」
「なんなら俺も泊まるぞ」
「要らん!」


がはは、と大仰に笑うヒューズを無視して彼女の小さな手を握った。


「…今日はシチューにしよう」


そう言えば、彼女は嬉しそうに笑みを浮かべる。あぁまた芋の皮剥きをしなくてはと辟易したが、この子の笑顔さえあればそれも悪くないと思えた。


両手に抱えた銃と花
(この手に残るはもはや銃のみ)


title:アンシャンティ

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