What is your wish?
I want to see him again._




「アンジェラ、テーブルの準備は終わったぜ」
「うん、ありがとう!」


リビングから聞こえてきた声に言葉を返し、こちらも鍋を温めていたコンロの火を消す。今日のために作ったアイリッシュシチューは、心なしか普通よりもジャガイモが多く入っていた。私は用意していた皿に出来立てのシチューを注いでいく。


「…良い匂いだな」
「ふふ、ニール好きでしょう?」
「アンジェラと同じくらい」
「もう…恥ずかしいからやめてよ」


そりゃ悪かった、とニールは頬にキスをひとつ落として奥へ消えた。たぶんシャンパンを取りに行ったんだと思う。まだ彼の唇の感触が残っている頬にそっと触れた。

(本当に、ニールの馬鹿…)

そこだけ熱を帯びて何だか熱い。



「お待ちどうさん」



シチューの皿を持って行きテーブルで待っていると、ほどなくシャンパンのボトルとグラスを持った彼が現れる。皺一つ無く綺麗に敷かれたテーブルクロスの上で、グラスに静かに注がれるシャンパン。刹那、弾けるスパークリングの音が耳に心地良かった。少し大人なワインとはまた違う、これが私は好き。ニールに差し出されたグラスを受け取る。


「それじゃ、二人で一緒に…」
「メリークリスマス!」


ガラスの触れ合う音が響いた。弾けるそれで喉を潤せば、爽やかな香りがいっぱいに広がっていく。


「…それにしてもよくこれだけの料理を一人で作れたな」
「朝早くから大変だったのよ?」


誰かさんが昼まで寝てるから、と嫌みを言えば罰の悪そうな顔をするニール。何だかそれが可笑しくて思わず噴き出してしまった。


「なに笑ってんだよ」
「ごめんごめん、ニールがあまりに分かりやすくて!大丈夫よ、昨日は仕事が大変だったんでしょ?」
「分かってるなら言うなって!」


そう言って誤魔化すようにシチューに手をつける彼は、やっぱり可笑しくて。私は上機嫌なまま、テーブルの中央に置いた七面鳥を切り分けてニールに渡す。ちらりと見た彼は大好きなシチューを、嬉しそうに口の中へ運んでいた。

(不思議ね…)

彼と一緒に居ると、どうしてこんなに笑顔になれるのだろう。


「ライルのやつ、また彼女にフラれたんだと」
「じゃあ一人のクリスマス?」
「自業自得だって…」


料理を口に運びながら、お互いの話に耳を傾ける。ライルというのはニールの双子の弟さんで、私も何度か会ったけど見た目は本当にそっくりだ。しかし双子とはいえ性格までは似ないらしい。基本的に遊び人な面のあるライルは、クリスマスを目前にして昨年に引き続きまた彼女さんを失ったんだとか。呆れた様子のニールに、私は苦笑する。



「……あら?」



そんな風に他愛もない話をしていた時だった。テーブルの上の料理が減ってきた頃、視界の端にちらつくひとつの白い影が映る。



「雪だわ…!」



ねぇニール、雪よ!と私は嬉しさの余りベランダに飛び出した。


「おいアンジェラ、待てよ!そんな薄着で出たら風邪引くだろ?」
「だってニール、雪が降って…!」


瞬間、ぐらりと揺らぐ世界。そして体を包み込む温もり。ニールに抱き締められたのだと気付いたのは、回された腕と首筋に触れるマロンブラウンの長い髪が擽ったかったからだった。大判のストールが、私とニールを包み込むようにかけられる。


「あ…ありがとう」
「どーいたしまして。それにしても今日はやけに寒いと思ったら、雪が降るからだったんだな…」


ほぅ、と吐かれる息が白い靄となって冷たい空気に紛れた。しんしんと降り注ぐ雪は、止む気配もなく暗い夜空から落ちてくる。他の人も気付いたらしく、周囲からは次々とあがる歓声が聞こえてきた。


「今年はホワイトクリスマスか」
「明日は積もってるかしら?」
「それだったら二人で公園に行って雪合戦でもやるか?」
「嫌よ、雪だるまにしましょう?」


寒さで頬が赤く染まるのも気にせずに、私とニールはお互いの手を絡めあって雪をじっと眺め続ける。



「…来年も一緒に、クリスマスの雪を見ようね」
「あぁ、そうだな…」



愛してる、アンジェラ。と耳元で囁くニールの声に私は小さく笑みを浮かべ、彼の手を握る力をほんの少しだけ強くした。













独りぼっちの朝がこんなに寂しいものだとは思わなくて。幸せな夢から覚めて胸に去来した虚無感に、わたしはただ涙を流す。今日はクリスマス、彼が…ニールが姿を消してから過ごす二度目の冬だった。少し広すぎるベッドから出て、リビングを通りキッチンへと向かう。


「…そっか、仕事なんだ」


彼が消えて入れ替わるように住み始めた、彼そっくりの住人。テーブルの上には今日は遅くなるとのメモが置かれていた。



「ニール、どこに居るのよ…!」



湯気を立てるコーヒーのマグカップを置き、私は顔を伏せる。二年前のクリスマスの翌朝、目覚めた私の隣にニールは居なかった。家のどこを探しても、仕事先や彼の好きな場所を探しても。そう、どこにも。混乱する私が助けを求めたのは彼の弟のライルで、それ以来ライルと一緒に今もここで暮らしている。

(もう、あなたと会えないの?)

こんなにも私はニールを求めているのに、彼は愛してるも伝えさせてくれないというのか。


「………?」


その時だった。テーブルの上に置かれていた端末が音をたてて着信を知らせる。今は誰とも話したくないけれど、仕方なくそれに出た。


「…もしもし?」
『アンジェラか?俺だよ、俺!』
「詐欺じゃないんだから…それでどうしたの、ライル?仕事は?」


電話の相手はライル。今の時間は仕事中のはずだというのに、聞いてみれば休憩中らしい。


『それより外、見てみろよ!』
「イルミネーションには早いわよ」
『良いから見ろって!』


まったく何だというのだろう。こんな真っ昼間から仕事中に電話なんかかけてきて、くだらない事だったら後で何をしてやろうと思いつつ外に出た。と、視界に飛び込んできたものに思わず目を奪われる。



「雪、が…」



まるでそれはデジャヴ。明るい昼間の空から静かに降り注ぐ雪。頬に触れる冷たい感触に、それが嘘ではないと知った。


「ライル、雪が…!」
『二年前にも雪降ってただろ?』


今の私は薄着なのだということも忘れて、私はもう一歩踏み出す。夢を見ているみたいだった。だって今日はクリスマスで、ニールと最後に過ごした時とあまりにも似ていて。


「今年はホワイトクリスマスか」
「っ、そう。ニール…あなた」


私に、会いに来てくれたのね。持っていた端末がするりと抜け落ち、私は地面に崩れる。じわりと込み上げてくる涙が止まらない。


「ニール、ニール…っく!」


独りなのだと、あの日からずっとそんな風に思っていた。ニールを失った哀しみに心が捕われて、すぐ傍で差し延べられる優しさに目も耳も塞いで。私はただただニールの居ない世界を拒絶して逃げていた。


「…でも、そんなの駄目だよね」


逃げる事は何も問題の解決にはならない。前に進もうとしない私を、あなたは叱ってくれようとしているのですね。


「愛してる、アンジェラ」
「っ!ニール…私、も」


何でかな、あなたと一緒に居ると私は笑わずにいられないの。たとえ奇跡のようなこの時が一瞬の事だとしても、それだけで私はもう大丈夫なような気がした。


臆病者へのラブソング


「…あれ、どうしたんだよアンジェラ?やけに機嫌良いじゃねえか」
「そう?いつも通りだけど」
「お、アイリッシュシチュー」
「こら、ライル!」


つまみ食いしようとしたライルの手を叩くと、文句を言いつつ自室へと消えていく。今年のクリスマスは久し振りに楽しめる気がした。



Did the wish come true?_




―――――
ニールでクリスマス夢でした。でも全然駄目じゃん!←何だか色々と大事な物を忘れてきた気がします。主に設定とか、設定とか。そして無駄にライルが出張ってる!別に恋人では無いですよ。ニールが居なくなってすぐに、夢主を心配したライルが一緒に住んでいるだけです。

ちなみにこのお話のイメージソングは、JUJUの「奇跡を望むなら」。泣いてばかりいないで前を向いて歩いていけば、必ず素敵な事が待ってるよというメッセージを込めてみました。が、完璧に消えてますな。

:)Thanks!!
title:確かに恋だった
image:奇跡を望むなら/JUJU



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