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末次トオル×(高校時代)
「やっぱGT-Rだよな！」
昼休み、弁当を速攻で食い終わった奴らは車雑誌片手に盛り上がる。中には運転免許すらまだの人間だって居るのに、そんな事はさして大きな問題ではないらしい。中古車のラインナップされた雑誌を指差し騒いでいる。
「な、トオルもそう思うだろ？」
――そんな俺も、つい最近夏休みを利用して免許を取った初心者だ。
「…別に、興味ねえよ」
「ったくお前ほんとノリ悪いな」
「つかトオル、何見てんの」
高三の秋と言う、あまり無駄にしてはいけない時期に時間を持て余す俺が見てる物。手元に広がってるのは、残念ながらコイツらと同じ中古車の雑誌である。
「何だ、トオルも車欲しいのかよ」
「てかロードスターって…！」
俺が見ていたのは、比較的ノーマルに近いユーノス・ロードスター。小型のオープン２シータースポーツカーだ。彼らが夢中なGT-Rのように絶対的な速さは無いが、ライトウェイトスポーツ特有の操る楽しみがある。その点が運転に楽しさを求める俺には魅力的だ。
「…んだよ、何か悪いか？」
「ロードスターって超遅えじゃん」
「馬力も無いしよ」
「お前そんなの欲しいワケ？」
「うっせ、黙ってろ！」
馬鹿にしたような視線にカチンと来て取られた雑誌を引ったくる。早くどっか行けとばかりに手を振ってやれば、文句を言いながらも戻った。…誰がGT-Rなんかに興味持つか。
「勝手にやってろ」
「へぇ。末次くんって、ユーノスのロードスターが好きなんだ？」
フンと鼻を鳴らした時だった。降ってきた声に顔を上げれば、一人の女子と目が合う。あぁ、この顔は知っていた。
「天宮…？」
天宮咲良、同じクラスの女子。明るく人好きのする笑顔が特徴で、学年問わず男子からの人気を密かに集めている。所謂モテる女だった。実は天宮とは高校入学以来ずっと同じクラスだが、こうして話すのは初めてだろう。
「良いよね、ロードスター」
「天宮、って車好きなのか…？」
「うん！大好き」
そう笑って前の席に座った。ふわりと甘い香りが鼻を掠める。香水の様な嫌な感じではなく、ナチュラルな甘さだ。
「RX-7とかシビックも好きだし、休みは鈴鹿にも行ったりするよ」
…何だか、意外な感じがする。普通女の子は可愛い物が好きで、休みの日はショッピングや彼氏とデートするモンじゃないのか？鈴鹿、菅生に富士のようなサーキットで天宮が観戦してる姿はちょっと想像出来なかった。
「でも、ロードスターも好き」
「…別に速くねェぞ？」
「そんな理由じゃないよ」
彼女も知っているだろうが一応そう言えば、思った通り天宮は苦笑する。
「ちっちゃくて可愛いし、少しダメっぽい所が愛嬌があって何か良いよね」
「ダメっぽいって…」
「私は、別に良いと思うよ」
そりゃセブンやシビックみたいな本格的なスポーツカーと比べりゃ、遅い上に非力なロードスターは駄目に見えて当たり前だ――言おうとして開いた口がゆっくりと閉じた。
「…は？良いって、何が」
「背の高い末次くんと、ちっちゃいロードスターかぁ…うん似合うって」
「似合う、か？」
「色は落ち着いた赤」
ハッとして、雑誌に目を落とす。そこにはクラシックレッドのNA6CE。
「末次くんなら絶対に気に入るよ」
ロードスター、と天宮は笑った。ふわりと柔らかなそれは正直、ロードスターや他のどんな車よりも魅力的で。こんな風に笑う奴なんだと内心一人そう思う。天宮の事を知りたい。
「……トオルで良いよ」
「えっ？」
「何か面倒だろ」
末次くんなんて呼ばれるようなガラじゃねえし。それに、そう呼ばれたい。
「…トオルくん？」
「……おう」
「じゃあ、私も咲良で良い」
「っ！」
「咲良、って呼んで？」
思わず天宮を見返す。戸惑いに小さく揺れる、けれど真っ直ぐと強い意思を持った瞳とぶつかった。喧騒は遠く、そのまま二人しばらく見つめ合う。
「…咲良」
「うん、なに…？」
「何でもねえ」
咲良――たった数文字のその短い言葉が胸を熱く叩いた。気まずくて目を反らせばクスクスと笑われて、余計に顔を向けられなくなる。今までこんな風な気持ちになった事は一度もなかった。咲良を前にすると、俺は強く意識してしまう。
「もし買ったら、私も乗せてね。トオルくんのロードスターに」
「おう、分かった」
「ふふっ、ありがとう…！」
俺はきっと咲良の事が。間抜けなチャイムの音が昼休みの終わりを告げる。ガタガタとうるさい教室の中で、小さく手を振り笑う彼女の姿だけがはっきりと俺の目に映っていた。
フルブラストステップ
(二人掛けの椅子に残る一つの温もり)
―――――
マイナーに、末次トオル夢(学生)。
彼には奈保さん居るもんね。
だから過去に帰って高校生に！
NAロードスターって凄く可愛いよね。
title：アンシャンティ
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