「サンタクロースって信じる?」


それは冬のある日のこと。溜まりに溜まった書類を面倒だと思いつつ捌きながら、すぐそこでデスクに着くマリアに聞いてみた。


「…一体何なのよ、急に」


俺の言葉に、それはそれは嫌そうな表情を浮かべて顔を上げる。ちなみに彼女は仕事をサボっていた俺への監督不行き届きという事で、サカズキから今日中に二人でこの書類の山を片付けるように言われた。…まぁ普通はそういうのって逆なんだろうけどね。


「だってもうすぐクリスマスでしょ?マリアは信じないの?」
「あぁ、そんな時期だっけ」


まるで他人事のようにそう呟いた。手にしていたペンを置き、手帳を取り出してカレンダーページを捲る。マリアのクリスマスはもう誰かと予定が入ってるのだろうか。


「そんなの、居るわけないでしょ」
「あらら、夢が無いのね…」
「別に…昔から縁が無かったし」


俺はマリアのこと、あまり知らないけれど。何となくマリアの言葉は、本当の事のような気がした。


「じゃあさ…俺と二人でクリスマスパーティーでもしちゃう?」
「おあいにく様、私は2日とも予定が入ってるの。中将同士で会議」
「あらら、御愁傷様」


クリスマスに会議だなんて、一体何の拷問だろう。俺は世間様で楽しいイベントやっている日に辛気臭い会議だなんて、まっぴらご免だ。最近の中将というのも随分と大変な仕事になったものである。大将で良かったなぁ。



「クリスマス、か……」



部屋の片隅、女性海兵たちが飾ってくれたツリーのイルミネーションがチカチカと瞬いていた。





大広間の中は閑散としている。世間一般にクリスマスと言うイベントが設定されている中、海軍は本当にお構い無しだ。つい数時間前まで行われていた会議はとっくの昔にお開きとなり、今はモモンガちゃんやベリーたち残ったメンバーと酒を肴に仕事の愚痴大会となっている。


「しかしこの時期の海軍本部はどいつもこいつも浮ついているな」
「クリスマスだしねぇ」
「まぁ、仕方ない部分もあるさ」


部屋に置かれたストーブで熱々に温められた熱燗。寒い日には持ってこいだった。私は毛布に包まりながらお猪口へと口をつける。喉を通っていくそれに体が芯からポカポカと温まった。


「トップのセンゴク元帥が浮かれてないだけまだマシじゃない?あの帽子が真っ赤なサンタ帽に変わってたら、海軍も終わりだよ」
「…まぁ、それもそうだが」
「ありえないな。でもガープさんは結構はしゃいでたぞ?」


あぁ、そう言えば朝一でクリスマスプレゼント貰ったっけ?のりせんの山だったけど。黄猿ちゃんはクリスマスのノエル食べさせてくれたな。


「そこはほら、ガープさんだから逆に許されてる部分もあるわけで…」
「センゴクさん、キレてたな」
「ガープさんも面白がってるしさ」


あの二人はいつもそうだ。だいたいはガープさんが何かちょっかいを掛けてセンゴク元帥が怒る。それはもはや海軍本部の日常の光景と化していた。


「ま、二人とも仕事してくれるだけまだ良いって。私なんて昨日まで書類の山に囲まれてたんだよ」
「あー、青雉さんか。いつもの事だが本当に大変だな。聞いたぞ、ついに赤犬さんがぶちキレたんだって?もう御愁傷様としか言えないな…」
「分かってくれる?もう味方はモモンガちゃんだけだー」


隣に座るモモンガちゃんに私は抱き付く。もちろん冗談だし、他のみんなもそれが分かってるのか少し呆れたように笑った。それにしても冬は人肌恋しくなると言うのは本当らしい。お酒も回ってきてふわふわする。


「何だマリア、もう酔っ払っちまったのか?まぁそろそろ良い時間だし、ここらでお開きにするか」
「そうだな。ほら、立てるか?」
「もう、大丈夫だってば!」


そう手を引かれ立ち上がった。軽く後片付けをし、戸締まりして明かりを消す。もう真っ暗だ。


「うわっ、寒い…!」


扉を開けた瞬間、冷たい冬の空気が頬を刺す。暗い空からは真白の雪がチラチラと降り注いでいた。ほぅと吐いた息が白く色付いて空気に溶ける。


「お、雪が降ってるのか」
「今年はホワイトクリスマスだね」
「こりゃ甲板掃除が大変だぞ」


マリンフォードに停泊している軍艦もかなりの数だから、この分だと新兵も動員して掃除だろうか。寒さに身を縮こませながら、ふと足元へと目を落とす。…これは一体何なのだ。


「雪だるま?」


それも、青いサンタ帽を被ってる。きょろきょろ辺りを見回すも、誰も気付いていないようだ。雪だるまと一緒に置かれた紙袋と、添えられたカードに目を通す。――私宛て、らしい。


『メリークリスマス、マリア』
「青いサンタクロース…」


思い浮かぶのは、一人だけ。簡素な紙袋を開けてみれば中には青のマフラーが入ってた。


「……馬鹿みたい」


でも、温かい。首元に巻いて、そっと顔をそこに埋めてみる。じわりと熱が体全体に染み渡って思わず笑みが零れた。微かに冬の匂いがする。


「…あ?どうしたんだマリア」
「ん、サンタが来たの」
「そのマフラー何だよ?」


夜が明けて、明日が来たらどんな顔をして青雉と会おうか。いっそ知らん顔をしてみたならどんな反応をされるのだろう。そんな事を考えながら人気も無く暗い海軍本部をあとにした。


ささやかな微粒子と温度
(砂糖より甘い幻想へと君を誘って)



―――――
2010年のクリスマス小説です。
青雉さん、ちょっとしか出てない。

(title:カカリア)

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