海兵。それはこの大海賊時代にあって世界中にはびこる悪から、罪も無いか弱き一般市民を守るため正義に殉じる海の戦士たち。たとえ明日をも知れぬ儚き命であったとしても、それが正義のためであるならば海の藻屑となろうと本望だ。



「どんどん飲めー!」



…とは言った物の、人間たまには陸が恋しくなるのもまた事実である。


「今日は無礼講だ!何でも許す!」
「中佐、娘さんをください!」
「貴様ァ、その首叩き斬ってくれる!」


東の空から闇が降り始めた頃、海軍本部の一角には仕事を終えた海兵たちが多く集まっていた。日頃から命懸けで海賊たちと戦っている兵士たちを労るため、毎年恒例となっている大規模な花見が今年も開かれている。満開の桜の木の下で階級の上下も無く大騒ぎするのだ。こんな平和を満喫していれば、やっぱり自分は家族に看取られてベッドの上で幸せな最期を迎えたいなぁと思ってみたり。


「まったく、はしゃぎやがって…」
「そう堅い事は言うな」
「今日は花見だ、こうもなる」


今日この日のために、一週間前から準備してきたコックたちの腕によりをかけた料理をつつく。


「それにしても海軍とはまったくもって金持ちな組織だな。ここまでする資金があるなら、それを軍備増強へ回せば良い物を。軍艦の修繕はどうなってる?」
「財務局に聞いてくれ…」
「それなら担当が泣いていた」


オニグモの苛ついたような言葉に、つい先日会った財務局の海兵の様子をモモンガは思い出した。最近はどうも軍艦の損傷や破壊が多かったりする。彼らは海軍は火の車だと嘆いていた。


「取り敢えずガープさんに暴れ過ぎないよう伝えてくれと言われた」
「あの人は昔よりマシな方だろ?」


海軍の英雄と言われる伝説の海兵ガープ中将は、その豪快な戦い方から海軍の中でもよく軍艦を壊す人である。それでも最近は彼の出動回数は減ったので昔より少ない方だ。向こうでセンゴク元帥に絡んで怒鳴られるガープを見ながら、中将たちは溜め息を吐く。


「もうこの話は止めよう」
「あぁ、そうだな」
「…ところで、マリア。お前はさっきからモモンガの後ろで何をしてる」


話も一段落着いたところで、ドーベルマンは少し前から視界の端のチラついているマリアに声をかけた。彼女は最初に少し酒を飲んで料理をつついた程度で、あとはずっとモモンガの後ろに寝そべって何かをしている。急にどうした。


「いや、だってね?モモンガちゃんの髪って長いから気になって」
「…おめェ、みつ編みは止めてやれ」


ひょいと手元を覗き込み、眉間に皺を寄せてオニグモは言う。通りでさっきから海兵たちの視線が痛いわけだ。ヤマカジも手を退けさせる。


「あっ!ヤマカジさんのケチ!」
「頼むから俺の髪で遊ばないでくれ」
「えー、だって長さ的に良いし…」
「…何だ、マリア?」
「ベリーの髭も良いかも」


そう呟いてキラキラと瞳を輝かせるマリアに、もう一度溜め息を吐いた。


「…センゴクさんとお揃い」
「言うなモモンガ」
「マリア、おめェ酔ってんのか」
「酔ってませんよーだ」
「ガープさん呼んでくるか?」


酔ってる、明らかに酔っている。頬をほんのり赤く染めて上機嫌で笑うマリアを見て全員が思った。忘れてはいけないが彼女は遠くワノ国で作られる漬物ですら酔った人間で、水の入ったコップを渡しながらヤマカジは聞く。


「まともにマリアの相手出来るのはあの人だけだからなぁ…」
「なんじゃい、辛気臭い顔して!」
「…っ、ガープさん?!」


その時だった。豪快な笑い声と共に、煎餅を片手に持ったガープが彼らの元を訪れる。センゴクに追い払われたのか。


「ガープさぁん!」
「ん、どうしたんじゃマリア?」
「みんなが苛めてくる!」
「マリアの奴、すっかり酔ってて」


急に現れたガープに、マリアは抱き付いて甘えるように擦り寄る。さながら猫のようだ。ガープもマリアの事を娘のように可愛がっているためか、特に気を悪くするでもなく頭を何度か優しく撫でて彼女の好きなようにさせている。


「ぶわっはっはっは!それはまたマリアが随分と迷惑をかけたのう」
「いえ、迷惑だなんて」
「マリア、センゴクの奴から美味い団子を貰ってきたんじゃが食うか?」
「食べる!」


それはまるで、我が子をあやす親のように。座り込んだガープの膝の上でマリアは嬉しそうにしていた。


「…たまには花見も良い物だな」
「あぁ、まったく」
「花見酒ってのもオツだ」


すっかり日も暮れて、空には輝く月が高々と昇る。この舞い散る桜の花びらのように儚い海の戦士たちは、時が過ぎ行くのも忘れて今をただ楽しんでいた。


涼やかに、伸びやかに、舞うは一夜の夢の中
(きっと誰もが明日を願って)



―――――
夢主と他の中将たち。
酔うと何だか甘えたな夢主です。
てかこれ一体何の話なのか。
あと中将達が偽者でごめんなさい。

(title:風雅)

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