※そんな二人の今後の展望/煙ver
※通称・デレてみたシリーズ





朝ベッドで目が覚めて朝食にトーストを噛り、牛乳たっぷりのカフェオレを飲みながら新聞を広げる。挟まっていたチラシはパン屋のオープンを知らせる物だった。後で少し足を運んでみよう。


「…あれ、鍋はどこ?」


少しだけ埃を被ったレシピ本を引っ張り出してキッチンの棚を漁った。


「あ、こっちの棚だっけ」


確かに初日に教えてもらったのに、やっぱり使わないと意味ないな。どうにかして鍋を探し出し、水を入れてコンロの上に置く。そして昨日の内に買っておいた野菜を全てシンクに転がした。一つずつ丁寧にそれらを洗う。


「………」


不思議な感じだ。まさかこの私がキッチンで料理をするなんて。ヘアゴムで長い髪を、首元の位置で一つに纏めた。


「ジャガイモは大きい方が良いかな」


レシピの本としばしにらめっこ。彼の作るカレーに入る野菜は、どれもゴロゴロと結構大きかったような気がする。結局ジャガイモもニンジンも大きめにカットする事にした。慣れない手つきで包丁を握り、野菜を次々に切る。



「ほんと、まさかだよね…」



でも、彼の事を思いながら普通に女の子するのも悪くない。ふと、シチューのお肉は鶏肉なのかどうか気になった。いやそれ以前に彼はどんなお肉が好きなのだろうか。あの体なら…ササミ?


「っ?!いった…」


料理なんて慣れないくせに考え事やよそ見をしていたのが悪かったのか、鋭い痛みが一瞬、指先に走る。


「あちゃー、やっちゃった…」


傷口から紅い血が、珠を作って流れていく。ズキズキと痛むそこをぺろりと舐めれば少し鉄の味がした。仕方なく軽く水で洗い流し、救急箱から絆創膏を一枚取り出して傷口へと巻き付ける。たぶんこの後もお世話になるのだろうと思った。


「…変なの」


この私が、誰かの為に料理をする?ふと顔を上げれば鏡が目に入って。




「そっか、私…笑えるんだ」




そこには絆創膏を巻いた指を撫で、彼の事を思う私が居た。こんなに穏やかに笑えるなんて信じられない。だけどそれは不快じゃなく、むしろ心地良かった。


「あ、早くしないと!」


海兵を辞めて、彼の帰りをただ待つだけの毎日。久し振りに会える彼を出迎える料理を作る穏やかな時間。そこには誰かを、自分を傷付けなくても良い普通の幸せがある。静かに心が満たされて。もうきっと寂しくない。



「テメェは刀なんか握らなくても、家で大人しく俺の帰りを待ってりゃそれで良いんだよ。もう泣くんじゃねえ」



もっと早く、私に差し出された彼の手を素直に握る事が出来たなら。


「マリアさん、ただ今戻りました!」
「もう?!ど…どうしよう、たしぎちゃん!まだ終わってない!」
「え?!もうすぐ来ますよ!」


――なんて、今更もう遅いんだけど


壊れた虹の欠片を拾って
(はじめてをたくさんわたしにくれた)


―――――
ヴェロニカでifな未来展開。
スモーカーだとどうなるんだろ。

(title:アンシャンティ)

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