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「お前、ホント、コーヒー好きな」
同僚が優生の前を通り過ぎた。
「あ、知ってるか。裏通りのメレンゲカフェって店」
書類を自分の机に置いてその同僚が優生に顔を向けた。
「メレンゲカフェ? 知らないな」
「行ってみろよ、コーヒー好きなら。そこ、コーヒー旨いらしい」
「へえ」
そんな旨いコーヒーの店なら、コーヒー好きの優生としては飲みに行かなければ気がすまない。
幸い残業もなく上がれた身、メレンゲカフェへ足を運んだ。
カランカラン、とドアの鐘が鳴る。
「いらっしゃいませ」
店員の声に顔を上げた。
店員と目が合った。
店員の驚いた顔。
優生も驚いた。
そこにいたのは大学時代の級友だった。
ふわりと彼は微笑んだ。
「座って」
カウンターの椅子に腰かける。
「久しぶり、だね。優生」
「ああ。元気か?」
「うん」
「あのコーヒー作れる、か?」
くすりと彼が笑った。
「カフェに来て、インスタント?」
「あれ、インスタントだったのか!?」
「そうだよ。一介の大学生の台所にコーヒー豆がそうそうあるかよ」
「それもそうだけど、でも……」
ぺろりと彼は下をだした。
「ウソ。ちゃんとした豆から挽いたコーヒーだよ」
「あのコーヒー以上の旨いコーヒー、オレはまだ知らない。コーヒー好きがたたっていろんなコーヒー専門店のコーヒーを飲んだけれど」
「そ? 光栄だな」
にこりと彼が微笑んだ。
ことりと優生の前にコーヒーが置かれる。
「どうぞ」
一口飲んでこの味だと思った。
大学生に戻った錯覚に陥りそうになる。
よく彼の家に遊びに行った。その度、このコーヒーを出してくれた。
「達志」
「おかえり」
ドアが開けられ、開けた人物と優生の声が重なった。
優生は振り返った。
その人物は優生の顔を見て、びっくりした顔をしていた。
「優生……」
顔に覚えはなかった。
けれど相手は優生を知っていたようだ。
「ミク、もう6時だから。おれ、上がらしてもらうよ」
「あ、うん」
「優生、いやじゃなければ、駅まで一緒しよう」
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