最強男 番外編 | ナノ


▼ timeslip

こつん、と音がしてはっと目が覚めた。


寝ていたようだ。千歳はぐっと伸びをしてベッドから降りた。

「制服、くしゃくしゃ……」
呟いて顔を上げてぎょっとする。

千歳を睨みつける男。

「誰、お前」
誰かに似てると思った。
そう、千歳の父親に、千里に。

「え、あの、君こそ誰? ここ、オレの部屋なんけど」
「は? ボケたか、お前」
言い方にかちんとくる。

ここは聖城学院高等部の寮の自分の部屋だ。

「どうやって入ったか知らねぇけど、出てけ」
椅子に座ってそいつは背を向ける。

「だからっ……」
言いかけて部屋の雰囲気が違う事に気付いた。

「あれ?」
見渡して人の部屋に入ってることに焦り出す。

寮の部屋を間違えたようだ。自分が悪い。

「ごめん、寝ぼけてたみたい。……仁」
机の上に仁の写真が写真たてにあった。
そいつが振り返る。

そいつのそばに寄って写真を覗き込む。

「ちょっと若いけど仁だ。なんで仁の写真があるんだ?」
「……お前、仁を知ってるのか」
「うん」
そうか、と呟いてこっちに向き直る。

その時、ノックの音がしてそいつがドアを開けに行った。

入ってきた人物に驚く。棗おじさんだ、と思った。その後ろには日立おじさん。

ただし、知ってる棗や日立よりずっと若い。

えぇっ!?
千歳は頭の中がパニックになる。

「朱里は?」
「見てない」
日立が答える。

「僕も」
「あいつ、どこ行ったんだ。お前、朱里を知らないか」

朱里。
よく知ってる名前。

まさかまさか、そう思いながら聞いた。

「東雲千里?」
そいつは怪訝な顔をしながらも頷いた。

タイムスリップ、そんな言葉が浮かぶ。

嘘だろ、と目の前の千里を見ながら思う。

確かに似てる。
でもこんな事ってあるんだろうか。

「あ、あの。……つかぬ事聞きますが、相模珠希って知ってます?」
「は? 珠希が今朱里と関係あるのか」
「……ないです」
一応、珠希とは出会っている様だと確認は出来た。

「千里、知り合い?」
棗がきょとんとしながら聞いた。

「いや? 知らねー」
「こんな奴、いたか?」
日立が記憶を探るようにこめかみに手を当てる。

どう説明しよう、そう思った時、棗が、朱里を探すんでしょとドアに向かう。

「日立、行くよ」
「はいよ」
そう言って2人は部屋を出て行った。


「お前、誰?」
「あー……」
困った。まさかタイムスリップしたなんて信じないだろう。

千歳だってどうやって過去に来たのかわからないのだから。

「僕は、東雲千歳」
「東雲?」
千里の目がすっと細くなる。

「聖城で東雲姓は俺と朱里だけだ」
東雲姓は珍しい。そうそうお目にかかれないだろう。

「僕は、貴方もさっきの棗さんも日立さんも、それから朱里さんも珠希さんも、……仁も。知ってる」
「お前、何?」
千里が警戒したように声が低くなる。

「東雲に千歳なんていない。姓が同じだけ、なはずないよな。どこまで知ってる。何者だ?」
どんどん千里が警戒を深めてる。
それが肌で感じられた。

「信じて。敵じゃない」
焦ってそう言えば益々千里の眉が寄る。

「義兄弟の類か?」
「違っ、そうじゃなくて! えっと……」

ええい、くそっ!

「父さん!」
「……」
千里がふっと表情を消したかと思うと笑い出す。

「え、あの」
「お前、サイコー」
「へ?」
「うちには未来を視る奴がいるからな」
「あ……」
すっかり忘れていたが東雲には未来を視る、そんな人物がいる。

「お前の名前を聞いて思い出した。そんな奴……息子が来るってな。でも何しに来た?」

そんなの知らない。わからない。

「さぁ?」
「ああ、そうか。俺に教えに来たんだ。将来仁は俺の隣にいるってな」

そうなのだろうか。そうなのかもしれない。

実際、千歳が仁を知っていると事は、仁は東雲の傍にいると言っているようなものだ。

「千歳、また会おう」
「うん」

そんな約束をして。



こつん、と音がして。
目を開けた。

本宅のリビングのソファーの上だった。

「……父さん。父さんに会いに行ってた」
千里は何言ってるとでも言いたげな顔をした。

「高校生の父さんに」
「ああ。その事か。また、会えたな」
「うん」

横で仁が不思議そうな顔をしていた。

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