▼ 団欒
「千早」
「ん?」
千早が顔を上げる。
風呂から上がって来た千里がタオルを差し出す。
「拭けってか」
タオルを受け取ると千早は千里の髪を拭く出した。
「ドライヤー買え」
「必要ねぇもん。使わない」
「俺が困る。ここに来た時、俺が不便だろ」
月に一度の割合で泊まりに来る兄。
「千里、今度買って来いよ」
「俺は忙しい」
「オレも忙しい」
にこっと笑顔を向ける。
「お前の笑顔には勝てないな」
くすりと千里が笑った。
末の弟のこの笑顔に、いつも何か救われた気がする。
頭の片隅で千里は思う。
きっと長男の千草だってそうだ。
いつまでも、この笑顔を絶やさずにいてほしい。
いつもそう思うのだ。
チャイムが鳴る。
千早が立ち上がって玄関に向かう。
すぐ千早が千草を連れてきた。
「久しぶりだなー、兄弟揃うの」
そうだな、千草が微笑む。
揃って一つ屋根の下、泊まるのは本当に久しぶりだった。
さぁ、兄弟団欒の夜が始まる。
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