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背中を流す時雨をよそに、千鷹は壱の事を考えていた。
「……使える」
小さくごちる。
「えっ?」
きょとんと千鷹を見る時雨になんでもないと告げる。
「時雨。明日、朝一で動け。総本家に行ってこい」
「総本家に?」
「倉の2階に行って何か探して来い」
「何かって、何を?」
「何かある。小さいものだ」
それが何なのかなんて千鷹はどうでも良かった。単に時雨を追い出す口実だ。壱が来るんじゃないかと千鷹は思っていたからだ。
「わかった」
風呂から上がった時、欠伸が出た。身体が眠りを欲しているのがわかる。
「眠い?」
「ああ……」
「……おやすみ」
時雨に髪を撫でられながら眠りに引き込まれていった。
目覚まし時計で目が覚めたのは7時だった。ベッドの中に時雨はいなかった。言われた通り、総本家に行ったのだろう。
「おはよう」
時雨がドアの横に立っていた。
「なんだ。行ったんじゃなかったのか」
「どこに?」
見据えるように千鷹を見る目。
「……壱、か?」
「そうだよ。東雲千鷹」
壱はにこっと笑い千鷹の傍に立つ。
「何の用だ? 壱」
「確かめに。あんたが本物か」
壱はもう笑っていなかった。
「オレは、いろんな人間見てきた。情報屋なんてしてるせいか人を人を疑う。入ってくる情報が偽物なんてよくある」
「それで?」
先を促す。
「あんた、嘘付かなかった。こいつなら信じられるって、オレの勘がいってる。それが本当か確かめに来た」
「なんで信じられる。これから嘘吐く可能性、あるかもしれないぜ」
「あんたは、嘘付かない。オレには」
「壱には、か」
壱の目は真剣だった。
「どうやって確認するんだ」
「……あんた、昨日言ったよな。鍵かけてる情報を盗めたら東雲組は潰れるって。あれは嘘じゃない。ほんとに潰れるくらいの情報なんだ」
「……で?」
「その情報のありか、わかったんだ。ただオレじゃ、開けることは出来ない」
「ああ」
「千鷹、あんたの頭の中にある。鍵は多分、時雨かな」
「情報屋、ハッキングは得意か」
「どうだろ。頭のほうは専門じゃないからな」
「そうだろうな。……壱、俺も昨日、お前を信用出来ると思った」
「どうして」
「お前と同じ。勘だ」
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