最強男 番外編 | ナノ


▼ White Christmas

12月24日、事務所に千鷹と時雨が残っていた。

他の組員は出払い、2人だけ。

「さっき、雨宮さんに貰ったクリスマスケーキがあるけど、千鷹食べる?」
「寿のロールケーキか?」
「クリスマスバージョンだけど」
「食うにきまってんじゃん。雨宮がくれたものにハズレはない」
「そうだね」
雨宮がお裾分けしてくれるものはいつもどれも美味い。

それがケーキであれ、茶菓子であれ、だ。

いそいそと時雨はお茶の用意をする。

ついこの時まで時雨はクリスマスを千鷹と過ごせると思っていた。


事務所のドアが開いたのは千鷹に紅茶を入れケーキと一緒に出した直前だった。

バタンと音をたて事務所に入ってきた人物。

日立神流だった。

「よっ、メリークリスマス。神流」
顔を神流に向け千鷹は声をかけた。

「クリスマスケーキですか……」
ちらりと神流は時雨を見た。

「……」
神流を見てから動きを止めた時雨。

「神流も食うか? 雨宮が持ってきたもんだ」
「……頂きます。4代目、先代から伝言です」
「え」
「木霊の件で話があるそうです」
「……木霊?」
時雨は何のことかわからなくて聞き返す。

時雨は千鷹の顔を見て、名残惜しそうに出て行った。


「食べたら、付き合って下さい」
「いいぜ。クリスマス、お前と過ごすのも悪くない。つか、木霊って何?」
「さぁ? ほんとに知らない。4代目ならわかるかと思ったけれど」
ひょいと神流は眉を上げた。

「呼び出すなんかの口実かもな。時雨、総本家にあまり顔を出さないからな。理由付けて3代目は呼び出さなきゃならない」
「そうかもですね」

神流は千鷹の座るソファーの隣に座ると、時雨の淹れた紅茶を一口飲んだ。

「神流の部屋に行こうぜ」
「いいですよ」
神流の目が嬉しそうだ。

「神流に敬語って似合わないな」
「そうですか?」
「俺の前で使うな。らしくない」
「……わかった」
「かーんーなっ」
「何?」
敬語じゃなくなり、満足そうに千鷹は神流に寄る。

「楽しい夜にしようぜ?」
「一晩、千鷹を貰う」
「やるよ」
千鷹は妖艶に微笑んだ。

「時雨、邪魔」
「じゃあ、帰らないでどこか行くか」
「……いいね」
「どこに行きたい」
千鷹は神流の顔に自分の顔を近付ける。

そっと神流は千鷹の唇に唇を重ねた。

千鷹はぐっと神流の頭を掴むと深く貪った。角度を変え、神流を押し倒すようにソファーに押し付けた。

「神流。ここでするか?」
神流は首を振った。

「だよなー。誰が来るかわかんねぇもんな。食ったら移動しようぜ。どこに行くかは任せた」
「千鷹」
下から千鷹を見つめる目はとても真摯な目をしていた。

「お前の目。嘘付かないその目が好きだ。お前は信じられる。……なんでお前じゃなかったんだろうな」
千鷹の“日立”。それは時雨のもの。

「これはお前と俺の秘密だ。俺はお前であってほしかったよ、正直な」
「千鷹……」

にっ、と笑って神流の上から退くとフォークを持った。

「おら、食え。寿のケーキ、残すなよ。美味いんだから」
ケーキにかぶりつく千鷹を見て神流は頷く。

千鷹と神流のクリスマスはまだ始まったばかりだった。

神流の車で事務所を出たのがそれから30分後。

千鷹は神流が行こうとしているところを特に聞きはしなかった。

着いた先は鎌倉の料亭だった。

「うっわ、高そう。よく知ってたな、こんなトコ」
「旅館も兼ねてる料亭で、有名人なんかも多いと聞いてる」
「へぇ……。入れんの? クリスマスだし、一杯じゃね?」
「そこは大丈夫」
神流は千鷹を促して中に入った。

案内してもらった先は離れの一室。豪華な食べ物が用意されていた。

「事務所出る前に電話してたのはここの料亭か?」
「ああ。この部屋はいつか千鷹と来たかったから、年中予約入れっぱなしだったんだ」
「お前、意外といじらしいのな。まず、料理楽しむか」


ゆっくり、料理を味わいつつ、日本酒を飲む。

「こんなクリスマスも悪くないな。料理も美味い。酒も美味い。な、神流」
ほろ酔い加減の千鷹は座卓から這い出し神流に寄りかかる。

「千鷹……」
「奥、行こうぜ。布団、用意されてるんだろ……?」
じゃなきゃ、神流が料亭兼旅館などと言わないだろうと千鷹は思ったのだ。

襖を開けるとそこにはやはり布団が二組、敷いてあった。

「神流、来いよ」
神流は料理のある座卓から動いていなかった。

「千鷹」
千鷹を見る神流の目は欲を孕んでいた。

「千鷹、脱げ」
神流が命令を下す。
本来なら千鷹が命令するほうだ。

千鷹は楽しそうに笑うとスーツを脱ぎだした。上着を脱ぎ捨て白いシャツからネクタイを引き抜く。シャツのボタンを開けていく。千鷹の鍛えられた、身体が露わになる。

「……」
こくりと神流の喉が鳴るのを千鷹は聞いた。

「神流」
名を呼ぶとびくりと神流の体が揺れた。

「来いよ、神流。脱がせろよ」
ゆっくり立ち上がって神流は千鷹の傍へやってくる。

そこから言葉などいらなかった。

神流はシャツを剥ぎ取ると千鷹の肌に吸い付いた。神流にとって久しぶりの千鷹の肌だった。

千鷹の腕がぎゅっと神流の背中を抱く。

神流の夜はまだこれから。
千鷹の夜もこれから。

いつの間にか雪が窓の外で踊っていたのを2人が知るのは次の日の朝だった。

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