いつから煙草を吸い出したんだっけ。
ぼんやりと煙草の先の煙を見る。
ああ、そうだ。煙草を吸う彼がとてもカッコ良く見えたから、だから真似して吸うようになったんだ。だから18の時、大学に入ってすぐだった。
それまで煙草に興味はなかった。
彼はどうしているだろう。
「へー、なぁに黄昏てんだ」
顔を上げれば恋人の顔。
へーと呼ばれる名前は名前の平(タイラ)から。
「思い出してた」
「何を」
「煙草の人」
「ああ、お前の好きな人」
「……違うよ。秋葉の事が好きだもん」
「出会った頃はそいつの話ばっかだったじゃん。好きだったんだろ? 恋してたんだろ」
好き? そうだろうか、好きだったのだろうか?
気になっていつも見ていた。
彼に恋してたのだろうか? わからない。
今もマイセンを吸っているんだろうか。
指の間にあるマイセンの煙草の灰を灰皿に落とす。
「そろそろ銘柄変えないか?」
恋人が顔を覗き込んでくる。
「……そうだね。でも、お前のマルボロにはしないけどね。俺にはきつい」
「いいさ、マイセン以外なら」
笑いながら恋人はキスをしてくる。
「秋葉」
「ん?」
「彼は憧れの人で、多分好きな人ではないよ」
「多分?」
「多分……」
彼に対する気持ちはわからないから、多分。
でも、多分恋ではなかった、と思いたい。
「秋葉、煙草買いに行く。秋葉が選んでよ。俺の煙草」
「いいよ」
灰皿に煙草を押し付けて秋葉と部屋を出た。
秋葉と出逢ったのは3年前。“彼”に似ていると思った。
想いが通じたのは2カ月前。
もう“彼”の面影を追うのをやめようと思った。秋葉がいる。愛しい人がいる。
「秋葉。“彼”の話はもうしない。俺には秋葉がいるから」
「うん」
「どうせ外に出たんだ。どっか行くか、秋葉」
「じゃあ、新宿に出るか」
コンビニへ向かっていた足が駅へと方向転換する。
「秋葉、見ろ! 飛行機雲だ」
「ああ、ほんとだ」
飛行機雲は2人が歩む道のように真っ直ぐ青い空に伸びていた。
090613