O-35 梅雨
「……あ」
この梅雨時、傘は必需品で。

雨は静かに降り出した。

傘は持って出なかった。

家は近くでこのコンビニにはジュースとお菓子を買いに来ただけ。立ち読みしている間に降り出したようだった。

走って帰るにはびしょ濡れになる降りで、傘を買うか躊躇う。

「……草木!」
ちょうど道の向こう、傘を差した草木が通りかかった。ナイスタイミングだ。

草木がこちらを向く。

「傘、入れてくれ」
叫ぶと草木は車を確認し、コンビニの入口へやって来た。

「助かった」
「……佐野は?」
「佐野? 知らね」
「一緒じゃないの?」
「四六時中、一緒じゃねーよ」
一緒に歩き出す草木。

「お前、コンビニに来たんじゃねーの?」
「あ」
草木が立ち止まる。

「お前、どっか抜けてんな」
「……」
草木が黙る。

引き返して草木を待っている間、雨音を聞いていた。

「ごめん、お待たせ」
また肩を並べて歩き出す。

「加賀の家、どこ?」
「産業道路の向こう。一番近いコンビニがさっきんとこ」
「ふうん。そうなんだ」
興味があるのかないのか、そんな答え方をする。

「草木はさ、俺が声かけると佐野いるか確認するよな」
「そう、だっけ……?」
「佐野のほうがいい?」
「どういう……意味?」
「草木は一緒にいる奴、佐野のほうがいいのかなーって事」
草木は黙って加賀を見た。

「どっちも嫌だ」
「あ、そう」
でも、草木は加賀も佐野も、ここ最近は前ほど嫌ってはないことに加賀は気付いていた。

3人でいることに慣れたというのもあるだろう。加賀と佐野に与えられる快感を草木は受け入れつつある。

「草木、映画の割引券あんだけど行く?」
「……」
「いやならいやでいい。佐野誘えばいいし」
「何観るの?」
財布に入ってる割引券を見せると目を輝かせた。

「観たかったやつ」
「じゃ、決まりな」

産業道路を越え、一つ角を曲がれば加賀の家だ。

「うち、ここ」
加賀は立ち止まる。

「サンキューな」
草木は頷いた。

「明日学校で」
「うん。また、明日」
草木がそう返してくる。

「草木は素直ないい子だな」
また性的な事をされるかもしれないのに、素直に返事をする草木。

だから、加賀と佐野に目を付けられたのだ。それに草木は気付いてない。

「加賀?」
意地悪く口角を上げれば慌てて警戒態勢を取る草木に笑いたくなる。

「江夏(エナ)」
名を呼べばポカンとした顔を見せた草木にまたなと言った。


加賀は草木を初めて名字ではなく名前で呼んだ梅雨のある日。


20131118

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