花も嵐も | ナノ


▼ 35

天狗は風祭が許せない気持ちが痛いほどわかるんだな。

天狗は鞍馬を許せない。
風祭は天狗を許せない。

「でも、敢えて言う。僕は、風祭が好きです」

ああ、天狗は強いな。
弱さもあった。けど、天狗も前へ歩こうとしてる。

「……気持ちだけ貰っとく」
「そっか」
少しだけホッとしたような顔をした天狗。

天狗の境遇を知れば、風祭も強く拒否は出来ないだろう。

「僕、もうここに来る気はないし。風祭やはなちゃん達の前にももう姿現さないから。あー、嵐にはキャンパスで会っちゃうかもしれないけど」
風祭が立ち上がる。

「クルタ、帰ろうか。風祭にいっぱい撫でて貰えて良かったな」
茶色の毛並みを撫でて帰ろうとした天狗を花月さんが引き止めた。

「天狗、ちょっと待って」
奥の棚から一枚のDVD-R。

「去年の今くらいだったかな、鞍馬がここに来て置いていったんだ。これしかデータがない。大事なもんだから中身は観ないでと言われたから観てない。予測するだけだけど、中身は先輩と天狗のやつじゃないかな?」
「それだけ、どこにもなかったんだ。どんだけ探しても……」
「じゃあ、きっとそうだよ」
はい、と花月は手渡した。

「どうして花月兄に?」
「さぁ、わからないけど。もしかしたら、俺が風祭を無理やりヤったからかなとか、思うけど。明確な理由はわからないな。答えをくれるはずの鞍馬はもういないしね」
そうだな、と天狗は頷く。

「……じゃ、帰る」
天狗はドアへクルタを連れて歩き出す。

「待って。天狗」
ライちゃんが天狗を引き止めた。

天狗の腕を掴むとオレと目が合う。

「また大学でね」
そう言うとライちゃんは天狗を引っ張って出て行った。

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