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天狗は風祭が許せない気持ちが痛いほどわかるんだな。
天狗は鞍馬を許せない。
風祭は天狗を許せない。
「でも、敢えて言う。僕は、風祭が好きです」
ああ、天狗は強いな。
弱さもあった。けど、天狗も前へ歩こうとしてる。
「……気持ちだけ貰っとく」
「そっか」
少しだけホッとしたような顔をした天狗。
天狗の境遇を知れば、風祭も強く拒否は出来ないだろう。
「僕、もうここに来る気はないし。風祭やはなちゃん達の前にももう姿現さないから。あー、嵐にはキャンパスで会っちゃうかもしれないけど」
風祭が立ち上がる。
「クルタ、帰ろうか。風祭にいっぱい撫でて貰えて良かったな」
茶色の毛並みを撫でて帰ろうとした天狗を花月さんが引き止めた。
「天狗、ちょっと待って」
奥の棚から一枚のDVD-R。
「去年の今くらいだったかな、鞍馬がここに来て置いていったんだ。これしかデータがない。大事なもんだから中身は観ないでと言われたから観てない。予測するだけだけど、中身は先輩と天狗のやつじゃないかな?」
「それだけ、どこにもなかったんだ。どんだけ探しても……」
「じゃあ、きっとそうだよ」
はい、と花月は手渡した。
「どうして花月兄に?」
「さぁ、わからないけど。もしかしたら、俺が風祭を無理やりヤったからかなとか、思うけど。明確な理由はわからないな。答えをくれるはずの鞍馬はもういないしね」
そうだな、と天狗は頷く。
「……じゃ、帰る」
天狗はドアへクルタを連れて歩き出す。
「待って。天狗」
ライちゃんが天狗を引き止めた。
天狗の腕を掴むとオレと目が合う。
「また大学でね」
そう言うとライちゃんは天狗を引っ張って出て行った。
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