月と太陽 | ナノ


▼ 4.花の人

リーナカンジャに着いた時、エイゼンは真っ直ぐスグイの森へ足を向けた。
ネオンはエイゼンが気になり後ろをついて行った。

「エイゼン?」
「ネオン。お前聞いたよな、なんで俺が機密書なんて持っているのか」
「うん」
「軍人だったからな。陸軍第16部隊情報処理部にいた」
「陸軍……第16部隊情報処理部?」
ネオンはエイゼンが言った言葉を繰り返した。
「公<オオヤケ>にはない、部隊だ。そこでスパイ行為や国の機密やらの情報を操作していた」
「じゃあ国家機密がエイゼンの頭の中には入っている……?」
「もちろんだ」
スグイの森の中にベンチが置かれている。そこにエイゼンは腰を降ろした。
ネオンも隣りに座る。

「そんな部署にいてよくこうして国外に出る事が出来たね」
「スパイ活動はするから国外には出れるさ。海外旅行が許されていないわけじゃない。
騎士になるってだけじゃスグイからは出れなかっただろうよ。それこそ騎士になったら母国を捨てこの国にいる事になるんだ」
「じゃあ、どうして?」
どうしてエイゼンが軍をやめ、スグイの、ネオンの騎士になれたのか。
「お前だよ。お前が狂わせた」
「僕?」
不思議そうな眼差しでエイゼンを見上げる。
眩しそうな顔をしてネオンを見ると悪戯っ子のような笑みをネオンに向けていた。

「花のにおい、お前は金木犀の香りがする」
ネオンのうなじの匂いを嗅ぐようにエイゼンはネオンを抱きしめた。
「スグイの人間は、嗅覚に優れている。人は花の香りがする。それをかぎ分ける能力がスグイの人間にはある」
「ああ、だからスグイには草木が多いのか」
「そーかもな」
「で?」
エイゼンが後を続ける。
「自分好みの匂いってものがある。自分を引き付ける匂い。スグイの人はそれに逆らえない」
「というと?」
「離れられなくなるんだ」
エイゼンのネオンを抱きしめる力が強くなる。
まるで離れて行かないで、そう言われているようで……。

「エイゼン、僕はどこにも行かないよ」
そう言うとエイゼンは顔を上げた。
「そうだな」
頷いて、エイゼンはネオンの額にキスをした。
「そんな人を見つけたら、それが異性であれ、同性であれ、伴侶、もしくは半身として、添い遂げなければならない。でなければ死ぬからさ」
「死ぬ?」
「俺にとって伴侶、半身はネオン、お前だ。そんな人を見つけてしまうとその人の匂いを嗅いでいないとスグイの人間は死に至る」
「エイゼンも?」
「……ああ」
今度はネオンのほうがエイゼンに抱き付いた。
「そんな……」
ネオンの悲しそうな顔にエイゼンは言った。
離れなきゃいいんだ、と。
「ネオンが、俺の『花の人』だ」
呟くようにエイゼンが言った。





そのエイゼンとネオンを見ていた人物がいた。クライ少佐だった。
クライ少佐に2人は気付かなかった。
「いい事を聞いたな」
いつもならエイゼンが気付いた。けれどスグイに行き何かに心を乱されているエイゼンに、周りに気を配る余裕はなかった。

「騎士殿はスグイ出身だったな」
ふむ、とクライ少佐はエイゼンを見ながら頭をフル回転し始めたのだった。

「リーナカンジャの為、ネオン様の為に利用させてもらおう」

クライ少佐は二人に笑いかけると屋敷に入って行った。
屋敷にはネオンの父、リーナカンジャの元帥がいた。

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