最強男 | ナノ


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「水族館に行くか」
「うん。どこの水族館?」
「八景島」

それから車の中は無言だった。仁は口を開かない。

「仁」
「なに?」
「聞きたいことないのか」
「あるけど、それって……俺が聞かなきゃ答えてくれないの?」
「……いや。そうだな、悪かった」
千里は小さく首を振ると眉根を寄せて目を瞑る。


「千里、俺の事嫌いになった? 実際俺が千里の傍にいて動いて、幻滅……した?」
「するわけないだろ」
「じゃあ……」
なんで、避けるんだと呟いた。

「……」
千里は答えない。

弾はなぜ千里を怖いと言ったのか、今の千里を見ているとわからなくなる。
弾が千里を怖いと言ったその理由を知るのはもう少し後になる。

「千里、Lは?」
「ポケットの中に」
「連れて行くの」
「仕方ないだろう。いるものは」
「まぁ、そうだけど」
目を伏せた千里が横にいる。目を上げ仁に向ける。


「仁は、好きになった女性、何人いる」
「え。えー? 何人かいるけど、なんで?」
「好きになって、どうした?」
「まず、友達になった」
「で?」
「で、って。気ぃ引くために優しくしたり、ちょっといじわるしてみたり、向こうが関心示したら避けて……み、たり……」
口をつぐんで千里を見れば目が会う。
そこで仁は笑った。

「よかった。ほんと嫌われたのかと思った」
「仁、いいのか」
「なにが?」
「最近、仁をヤクザにしていいのかと思う」
「ヤクザらしからぬ発言だ」
ヤクザの組長がこんな台詞を言っていいのかと思う。

「傍にいて欲しい。でも、本当にこの極道の世界に入れていいのか」
「千里。言ったよね、何度も。傍にいるって。それに今更だよ」
「……」
「もう後戻り出来なくしたのは千里だよ。この世界に引き入れたのも千里。俺、信用されてないみたいだ。信じてよ。俺、千里が好きだよ。傍にいたいよ。……さっき千早先輩のトコ行かないって言っただろ。あれ、ほんとに行かない。遅かれ早かれ組長の傍にいて狙われるならどんと来いだよ」
「仁……。お前は強いな」
「千里がいるから強くなれるんだよ。俺さ、刺青背負ったの後悔してないから。最初は不安だった。俺、どうなるんだろうって。でも、地に足つけてここにいる。千里も、もう聞くなよ。傍にいるからさ。離れろって言われても離れねーよ?」
「ああ。もう言わない。信用してないわけじゃないんだ」
「あー、俺なんでキー受け取っちゃったかな」
路肩に車を寄せて止めた。

「仁?」
千里を引き寄せ首に腕をまわす。微かにいつもの千里の香水の香りがした。

「もう、俺……千里に捕われてる」
微笑んで千里にキスした。

「俺もだ」
千里の両手が仁の脇にまわり、仁を酔わせる媚薬のようなキスを返した。


「珠希さんが言ってた。千里は、自分の気持ちの持っていきようがわからないんだって」
「ああ、当たりだな。情けないな」
ううん、そんな事ない。と、首を振る。

「ね、千里。泰介さんの髪をくしゃって頭撫でただろ。あれ、やだ。やるなら俺だけにしてよ」
「泰介に?」
「佳乃さんが事務所に来た時だよ。こうやって、くしゃって」
千里の髪をくしゃりと撫でる。

「ああ、そういややったな」
「なんか、ヤだった」
「もうやんねぇよ」
そういって、くしゃくしゃと仁の髪をかき回した。

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