最強男 | ナノ


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「知り合いですか? ヤクザと。しかもあの人ヤクザに見えない」
「刑事がヤクザと知り合っちゃ駄目か?」
おもしろそうに仁の顔を覗き込む。
「そんな事は」
「まぁ、マル暴の刑事はヤクザと大概顔見知りだ」
苦笑と共に車に乗り込む。
「ねぇセンパイ」
エンジンをかけながらミラー越しにセンパイを見る。
「ヤクザって、あんなやさしそうな人っているんですね」
「やさしい? いるわけないだろ。ヤクザに。あの人の笑顔に騙されるな」
「……そうですね。ヤクザがやさしいわけ、ない」
前を睨むように眼差しをきつくして仁は言った。
「仁?」
「行きましょうか」
そう言って笑うと仁は車を出した。


千早はちらりと仁の横顔を盗み見た。
ぎゅっと眉を寄せている仁。
「仁、何かあったのか?」
「え?」
「ここんとこ、何かおかしいからさ」
仁は唇をかんだ。
「何でもないです」
いきなり仁が車を止めた。
「スイマセン、運転代わって下さい」
車を降りた途端、仁はその場に座り込んだ。
「仁?」
「センパイ、俺、弱音吐いてもいい?」
「ああ」
千早は仁の背中に返事をした。

「離婚したい。一人になりたい。今の生活から解放されたい」
「離婚って、お前結婚してたの」
「お互い学生結婚です」
「ふうん?」
「好きだけじゃあ、駄目ですね、長続きしない」
「まぁそうだな」
生活をしていくのだ。好きだけじゃ生活していけない。
理想と現実は違うのだ。
「明日、何もなければ早く帰れますよね?」
「ああ。……聞いてやるよ、話」
「ありがと」
返事を返して立ち上がる。
「行きましょ、現場」
運転席に戻ろうとする仁を止め、千早が運転席に座った。





けれど次の日、仁は出勤してこなかった。

千早はなぜ昨日のうちに仁の話を聞かなかったのかと後悔した。


その日以降、仁は出勤しなかった。


千早は仕事の合間に仁を捜し出した。

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