最強男 | ナノ


▼ 1

千里が病院を退院したのは銃で撃たれてから2週間たった日。その日、8月から9月に月が変わった。


「ちょっと出掛けて来る」
日立探偵事務所に出入りし始めていた。それは千里が退院した3日後の事。

朝と晩、時雨に稽古をしてもらい、その後千歳を幼稚園に送り出し、歌舞伎町の日立探偵事務所にいる圭介のもとへ行く。

昼間の千歳のお迎えは千草に代わってもらい、圭介と行動する。横浜に帰ってくるのは8時過ぎ。

仁が帰って来た時、千里はいたりいなかったりだ。


「どこに行くんですか?」
「東雲金融。もうすぐ泰介が来るはずだから泰介と飯でも食いに行け」
「はい」
圭介が出掛けると事務所は仁1人になる。

圭介がいるとひっきりなしに掛かる電話がりんとも鳴らない。

圭介がいない間は電話番を任されているが仁が1人の時は一度も鳴ったことはない。


数十分して泰介がやってきた。
泰介と目が合う。

「ケイ、まだ帰ってきてない?」
「あ、はい」
テーブルに財布と携帯を無造作に置き、仁に問う。

「どこ、行った?」
「東雲金融に」
「なーんかトラブったのかもな」
仁の向かいのソファーにどかりと座り泰介は仁を覗き込んだ。


「仁。思い出した」
「は?」
「どっかで会ってないかって聞いたろ」
「ああ、その話ですか」
少し身体を引いて泰介を見た。

「ジンジロ」
ついこの間、弾の口から聞いた懐かしい仁のあだ名。

「泰介さんとどこで?」
「わかんねぇか、お前高校生だったわ。よく厚と智の2人とつるんでたろ」
「泰介さん、誰? 全然わからないです」
「焔の特攻」
「……タイさん? 嘘。え、全然前と変わってる」

焔とは、族のチーム名で仁は厚也が所属するこの焔に入り浸っていた時期がある。

「お前もな」
笑って返される。

「総長、お元気ですか?」
「焔の総長って、圭介だぜ」
「……更にわからなかった。あの、ケイさん?」
「あの、ケイだ」
「性格違いません?」

焔時代のケイは、今のように大人しくはなかった。感情を表に出し、わかりやすい人だったが、今はあまり感情を表に出すことはない。

「今のケイがホントの圭介さ。ま、慣れろ。仁、メシ食いに行こうぜ。腹減った」
時計を見れば1時を回っている。仁は立ち上がった。

泰介と来たラーメン屋。カウンターに座りラーメンを注文する。

「人の繋がりって、どこで繋がってるかわかりませんね」
「意外なとこで繋がってたりするからねー」
「あー、ですね。知ってました? 弾と智樹が幼馴染みだって」
「へぇ。おれ、東雲に出入りするようになったのは大学入ってからだからな」
「あ……」
泰介が千里と義兄弟なのを思い出す。

「聞いたか、千里から」
「何人かいるって事だけ」
「愛人が5人。愛人の子がおれ含めて11人」
「そんなに……?」
「前組長はおれから見たって、格好良い人だったからねー」
それはなんとなく千里や千草を見ていてわかる。それに泰介だって女にもてそうな造形をしている。

「千明は今、本宅にいるから会ってるだろ。あとおれと圭介な。仁が知ってそうな奴らってそのくらいだろ」
「圭介さんも?」
「ああ」

注文したラーメンをすすりながら仁は横に座る泰介を見る。

「泰介さん、千里に会ったのって、じゃあ大学の時?」
「いや、高校の時。2年の時、千里と同じクラスになった。ま、本妻の子が同じ学校にいるっていうのは知ってたけどな。あいつはおれの事、これっぽっちも知らなかったぜ」
親指と人差し指を環にして数ミリの隙間を作る。

「千里とは、そっからの仲だ」
「じゃあ、仲良くなかったりする?」
「いや? あの頃は反発しあってたけどな。今は全然。ケイなんかおれより目の敵にしてた千里を今は慕ってるしな」
初めて圭介と会った時、圭介は千里に礼儀正しく頭を下げていたのを思い出す。

「仁、人は変わる。良くもなるし、悪くもなる。……でさ」
「何ですか?」

「ジンジロ」
「……何?」
「それでいい。おれに敬語使うな。昔のノリでいい」
「わかった」

「タイさんて、千里と学校が一緒って事は、聖城?」
「ああ。一応、認知はされなかったけど、金は出してくれたからな。だから妾の子の男子は本妻の千里達と同じ聖城だ。もしくは聖望な」
「じゃあ、女の人は? 中には女の人いたんでしょう?」
「ああ、やっぱ私立の名門校に行ってる。東雲の血筋は頭の出来はみんないい。落ちこぼれはおれのみってね」
「え、聖城なのに?」
聞き返すと泰介は頭を掻いた。

prev / next
bookmark
(1/21)

[ back to top ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -