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「待ってて、ここで」
いつ千里が撃たれるのかわからない。だから車を止めた時、言った。
「ああ。ほら、行ってこい」
幼稚園の中に入って千歳を探す。
「千歳」
千歳はすぐ見つかった。
最近仲良くなった男の子といた。
「仁」
「帰ろ? 今日のお迎え、千里も来てるよ」
「ほんと!?」
ぱっと千歳の顔が明るくなる。
「じゃあね、七浬君」
千歳が七浬に手を振る。
「また明日な、千歳」
七浬も手を振る。
千歳と手を繋いで車に戻る。
「ただいま」
後部座席のドアを開け千歳が大きな声を出す。
「おかえり」
千里の大きな掌が千歳の頭を撫でた。
嬉しそうに千歳が笑った。
本宅に向けて車を出す。
本宅の屋敷まで何事もなく戻って来る事が出来た。
千歳が降り、千里が車から降りる。
玄関迄の数メートルだった。
「仁!」
千里の声が聞こえ振り返る。
どん!
そんな音を耳にした。
気付けば千里が仁をかばうように上に乗り、地面に倒されていた。
「千里さん!」
見れば千里のスーツが朱に染まっていた。
「千里さん! しっかりして!」
「仁さん!」
千草の声に顔を上げる。
「千草さん!」
千草に組関係の連絡を任せ仁は救急車を要請する。
仁の行動によって千里が生きるか死ぬか決まるんだよ、そう言った千咲の言葉が仁から離れなかった。
腕の中にいる千里の体温が急速に下がっているのを感じた。
不安そうに玄関へと先に入った千歳がこっちを見ていた。
「千歳、タオル持ってきて!」
頷くと千歳は廊下を走っていく。
「千里さん」
咄嗟の事で、再び千里さんになっているのも気付かず名前を呼ぶ。
「千里さん、すぐ救急車来るから。頑張って! 死んじゃダメだ」
千歳が沢山のタオルを持って帰ってくる。
「ありがと」
手で押さえついた傷痕をタオルで止血する。
千歳の顔を見れば今にも泣きそうだった。
「大丈夫。千里さんは強い人だよ。こんな事で――」
死ぬもんか!
ぎゅっと千歳を抱きしめた。
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